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卵と心筋梗塞、実は無関係だった 厚労省9万人調査 indexへ

 卵を毎日食べても心筋梗塞(こうそく)の発症リスクは変わらない?――。卵はコレステロールを多く含み、たくさん食べると心筋梗塞の危険性を高めると指摘されてきたが、厚生労働省研究班(班長=津金昌一郎・国立がんセンター予防研究部長)の大規模な疫学調査で意外な結果が出た。
 狭心症などにかかったことがない全国10地域に住む40〜69歳の男女約9万人について、10年間調べた。開始時に食生活などの習慣を聞き、卵を「ほぼ毎日食べる」から「ほとんど食べない」まで、四つのグループに分けたが、「ほぼ毎日」の人たちの心筋梗塞の発症危険度は、ほかのグループと変わらなかった。
 総コレステロール値の平均も「ほぼ毎日」の人たちが200で、「ほとんど食べない」人たちの205とほぼ同じだった。担当した中村保幸・京都女子大教授(循環器内科)は「もともとコレステロール値が高かった人が、食べないグループに入った影響も考えられる。卵を毎日食べるかどうかよりも、総コレステロールを低く保つことの方が重要だ」と言っている。

医師、名義貸しで報酬 コンタクトレンズ診療所 indexへ

 診療報酬の水増し請求疑惑が相次いで発覚したコンタクトレンズ(CL)診療所で、実際には勤務しない医師を開設時に管理者として届け出て、医師が報酬を得ているケースがあることが、日本眼科医会の調査でわかった。診療は、別のアルバイト医師のほか、資格を持たない検査員が担当しているケースもあるという。診療所の管理者に勤務実態がなければ医療法に抵触する可能性もあり、厚労省は「事実であれば問題」としている。
 名義を貸すだけで毎月数万円もらえる――。
 ある大学病院に勤める若手医師は、この春、CL診療所の管理医師として名義を貸す「仕事」があると、同僚から教えられた。
 診療所の開設には、常勤する医師が管理者として保健所に届け出ることが義務づけられている。
 数日後、仲介業者と会った。「管理ドクターとしての名義貸し」などと題された説明書には「患者さん(お客さん)との間でトラブルが生じた時は、ほとんど店側が対応してくれます」との記載もあった。業者から指定された診療所の開設場所は、CL販売を扱っている眼鏡チェーン店の隣にある。
 名義を貸すだけで、毎月、業者から支払われる報酬は9万円。迷わずに決めた。
 「名義貸しは違法かもしれないが、10万円足らずの月給だけじゃ生活できないんです」。この診療所ではアルバイト医師が交代で診察にあたっているという。
 仲介業者は朝日新聞の取材に対し、「以前は確かに名義貸しのあっせんをしていたが、今は保健所などの指導が厳しいと聞いてやっていない」と答えた。眼鏡チェーン店の広報担当者は「診療所の開設を仲介業者に委託し、コンサルタント料を支払っているが、名義貸しについては把握していない」としている。
 医会によると、名義貸しの背景には、眼科医不足があるという。眼科医は全国で約1万4000人。一方、CL量販店やCL販売を扱う眼鏡店は約2万店以上にのぼり、大半の店の近くにCLや眼科診療所がある。名義貸しによって開設されたとみられる診療所も数多くあり、資格のない技術員が検査や処方を行っているケースもあるという。
 各都道府県で社会保険などの審査委員を務めている医会の会員からは、名義貸しによって開設されたとみられる複数の診療所から、同じように水増しした診療報酬明細書(レセプト)が提出されているという報告も相次いでいる。
 医会の関係者は「眼科の知識がない医師や検査員が量販店や仲介業者に言われるまま会計処理している可能性があり、こうしたことも診療報酬の水増し請求を助長している」と指摘している。

ドナーのレセプト添付せず 病気腎移植の徳洲会病院 indexへ
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 病気の腎臓を移植用に使っていた宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)で、「病気腎」の移植を受けた患者11人の診療報酬明細書(レセプト)に、臓器提供者(ドナー)側のレセプトが添付されていなかったことがわかった。ドナーのレセプト添付は厚生労働省が通知で義務づけており、同省は「重大な手続きミスが繰り返されていた」として、厳正な処分を検討する方針だ。
 生体腎移植の診療報酬請求では、ドナー側の摘出手術の項目は「移植用腎採取術」(2万2800点)で、移植患者への手術の診療報酬は7万4800点となる。厚労省は、移植患者のレセプトにドナーの氏名と診療報酬の合計点数を記載するとともに、ドナーのレセプト添付を通知で定めている。摘出と移植手術が異なる病院で行われた場合でも、移植手術をした病院がまとめて請求するよう求めている。
 だが、同病院での病気腎移植の場合、摘出手術は「腎摘出術」(1万6300点)などの項目を適用し、結果的にドナーとなった患者を治療するための手術としてレセプトを作成。一方で、移植患者のレセプトにはドナー側のレセプトを添付せず、「院内(または院外)からの提供腎」との注釈をつけて別々に審査・支払機関に請求していた。他病院から病気腎の提供を受けた5件は、移植患者のレセプトだけを作成していたという。
 審査・支払機関の県国民健康保険団体連合会によると、ドナーのレセプトが添付されていない移植患者のレセプトは通常、「記載不備」として病院側に照会するが、「担当者が見落とした可能性もある」という。
 同病院のレセプト作成担当者は「腎臓を摘出した患者と、移植患者のレセプトを同時期に処理していたので、何となく病気腎移植ではないかと思っていた。前任者がおらず、最初に添付しなかった理由は不明だが、不備を指摘されたことがなく、その後も添付していない」と説明する。
 〈キーワード:診療報酬請求〉 医療機関が患者(被保険者)に施した手術や入院などの処置について、決められた点数(1点=10円)をレセプトに記載し、国民健康保険団体連合会などの審査・支払機関に請求。審査・支払機関は記載内容をチェックして、問題がなければ健康保険組合などの保険者に送る。保険者は審査・支払機関を通じ、医療機関に患者の自己負担分を差し引いた金額を支払う。

タミフル巡り厚労省に要望 indexへ

 インフルエンザ治療薬オセルタミビル(商品名タミフル)を服用した後の異常言動で子供を亡くした親と、NPO法人「医薬ビジランスセンター」(大阪市)の浜六郎理事長が17日、厚生労働省を訪れ、服用と異常言動との因果関係を認めるよう要望した。
 小児のタミフル服用と異常言動については、厚労省研究班(主任研究者、横田俊平・横浜市立大教授)が10月「関連性は認められない」とする報告書をまとめたが、浜氏はこの報告書にも服用した子の異常言動発生率が高いことを示すデータがあるとして反論。「再分析し、正しい情報を流してほしい」と求めた。

出血の男性、救急隊が搬送せず 意識不明に 奈良 indexへ

 奈良県橿原市の県警橿原署の敷地内で、意識がもうろうとした状態で見つかった男性を、通報で駆けつけた橿原消防署の救急隊員が軽傷と判断し、病院に搬送しなかったことがわかった。男性は帰宅後に意識を失い、運ばれた病院で脳内出血などが判明して手術を受けたが、意識不明の重体。同消防署は18日午前、記者会見し、「判断に誤りはなかった」と説明した。
 橿原消防署などによると、15日午前2時10分ごろ、橿原署の駐車場で同県大淀町の製材業の男性(42)が歩いているのを署の幹部が発見。署内のソファに座らせ、同3時ごろに橿原消防署に連絡した。数分後に救急隊員が到着。男性は当時、泥酔状態で、鼻血と左顔面に擦り傷があったが、痛みを訴えていなかったことや会話もできたことから、救急搬送の必要性は低いと判断したという。
 間もなく駆けつけた男性の家族が病院に搬送するよう求めたが、救急隊員が「軽傷の場合は搬送先を探すのに時間がかかる」「自宅で様子を見たらどうか。何かあれば救急車を呼んで」などと伝えると、家族は納得して連れ帰ったという。
 だが、朝になっても男性が目覚めないため、家族が昼ごろ、地元の消防組合に通報。男性は搬送先の病院で脳挫傷などと診断され、手術を受けたが、意識不明の状態が続いている。男性の父親は「頭を打っているかも知れないから、搬送先を探してくれと何度も懇願した」と憤慨している。
 高橋善康・橿原消防署長は「当時の救急隊の判断は適正だったと考えている」と話している。

厚労省、看護師偏在の実態調査 診療報酬再検討も indexへ

 厚生労働省は、看護師が都市部の大病院に集中する一方で地域の中小病院では不足しつつある問題について、実態を把握するための緊急調査に乗り出した。放置して偏在が深刻になると、地域医療の質が悪化しかねないためだ。今月下旬に開かれる中央社会保険医療協議会(中医協)に結果を報告し、偏在のきっかけとなった診療報酬の改定について議論する。
 今年4月の診療報酬改定では、看護師を手厚く配置する病院が高い収入を得られる仕組みが導入された。看護職員1人が受け持つ入院患者数で決まる入院基本料を変更。従来の患者15人、13人、10人の区分に加え「7人」を新設し、基準を満たした病院が割り増しの報酬をもらえるようにした。
 医療の質を高めるとともに、急性期の入院患者を短期間で集中的に治療することで在院日数を短縮して医療費を抑制する狙いだ。
 日本看護協会の調べでは、10月1日時点で「7人」と届け出ているのは全国で549施設。5月1日時点の291施設から急増した。同時に大学病院や都市部の大病院を中心に、収入増を目指して来春の看護師採用人数を従来の数倍の数百人単位で増やす動きが表面化。看護師の養成学校を卒業見込みの学生への就職勧誘も激化している。
 こうした動きを受けて同省は実態調査を決定。今回は、国立病院、国立大病院、日赤病院、済生会病院など全国の大手病院が来春に予定している看護師採用人数を調査。さらに全国480の看護師養成学校のうち110校に対して、来春卒業見込みの学生の就職内定状況をアンケートする。
 同省の推計では、全国の医療機関で今年必要な看護職員数は約131万4000人だが、実際の就業者数は127万2000人。現状でも看護師の絶対数が不足しているのに、都市部の大病院による看護師引き抜きに拍車がかかったり、約4万人の新卒看護師が大病院に集中したりすれば、地域の医療が看護師不足で立ちゆかなくなる心配がある。
 深刻な実態が明らかになれば、手厚い配置基準が認められる医療機関を急性期医療の必要度が高い病院に限定するなどの対応策が中医協で検討される可能性がある。

診療報酬水増し横行 コンタクトレンズ診療所 indexへ

 コンタクトレンズ(CL)の購入希望者を専門的に検査する眼科診療所(CL診療所)が、診療報酬を水増し請求する例が全国で相次いでいることが、日本眼科医会の内部調査でわかった。4月の診療報酬改定でCL診療の検査料が大幅に引き下げられて以降、急増しており、このままでは水増しの合計額は年間で600億円規模になるとみられる。医会は調査結果を厚生労働省に提出、診療所への指導・監査の強化を要請した。
 CL診療所をめぐっては、報酬を過剰請求しているという指摘が以前からあった。今春の改定は「CL診療にかかわる不適切な請求をなくすことも狙いのひとつ」(厚労省)だったが、改定が骨抜きにされた形だ。
 全国約6500の眼科診療所のうち、CL診療所は約1300で、大半がCL量販店と患者紹介などの協力関係を結んでいる。
 医会は、各都道府県で社会保険などの審査委員を務めている医会の会員を通じ、全国のCL診療所について医師名や診療報酬明細書(レセプト)の内容について継続的に調査を続けてきた。それによると、CL診療所が1カ月に提出するレセプトは平均約1400件で、一般の眼科診療所の約1.5〜十数倍。大半の診療所が約8割を初診患者として扱い、1診療所あたりの月間保険請求額は約870万円に上っていた。
 4月の改定では、さまざまな検査料について出来高方式で加算していた保険点数を一本化した上、CL患者の割合が70%以上を占める眼科診療所の点数が大幅に引き下げられた。大半のCL診療所が引き下げの対象になるため、一つの診療所あたりの請求額が月間約250万円の請求に減るとみられていた。
 しかし、全国の審査委員からは「改定後も、CL診療所は以前と同レベルの件数や金額で保険請求を続けている」という報告が相次いでおり、今回の集計で、1300のうち約1000カ所の診療所で、水増し請求が行われている可能性が高いことが判明したという。
 水増しは、CLの利用者を未経験者に偽装するほか、全患者数に占めるCL患者の割合を70%未満にしたり、CL検査以外の目の病気を治療して一般の眼科患者を装ったりしている。この結果、改定前と同程度の保険点数を請求している例が大半という。医会の関係者によると、水増し額は1カ月あたり約50億円で年600億円にのぼる可能性が高いという。実際、九州地方のある県で、社会保険事務局が調べたところ、大半の診療所で不正が認められたという。
 不正請求が明らかになった場合、診療所は保険支払機関から返還を求められたり、医師の保険医登録が取り消されたりすることもある。
 日本眼科医会の吉田博副会長は「大半のCL診療所で水増し請求が行われている可能性が極めて高い。量販店系列の複数の診療所で同じ手口が使われるなど組織的と思われる例もある。診療報酬の改定の効果を上げるためにも、行政による一斉立ち入りなど積極的な指導・監査が不可欠だ」と話している。
 〈コンタクトレンズの診療報酬〉 日本眼科医会によると国内の眼科の総医療費は約1兆円で、このうちCL診療所の医療費が約1400億円を占めていた。ただ、1人の患者に何度も初診料を算定している例などもあった。このため保険給付範囲を明確にしてCLの医療費を約1000億円削減することを目的に、診療報酬改定で、従来は精密眼底検査など個別検査の保険点数を加算していたのを、一括した点数に統一した。CL診療所のように患者全体に占めるCL利用者の割合が70%以上の場合、70%未満の一般眼科に比べて保険点数が約半分に減った。またCL利用者に対する定期検査は保険給付の対象外▽初診料は1人につき最初の1回などとなった。

脳脊髄液減少症 研究会が暫定ガイドラインを作成 indexへ

 強い衝撃で髄液が漏れ、頭痛などの原因につながるとされる「脳脊髄(せきずい)液減少症」で、脳神経外科医らの研究会(代表、篠永正道・国際医療福祉大熱海病院教授)が、診断・治療の暫定的なガイドラインをつくり、17日に発表した。
 主な症状は首の痛み、めまい、耳鳴り、疲れなどで、「起きあがって3時間以内に悪化することが多い」としている。診断には放射性同位元素やMRIを使った画像撮影を、治療では、約2週間安静にして十分な水分を取ることや、漏れたとみられる場所に患者から採った血液を注入し、固めてふさぐ「ブラッドパッチ」を勧めている。
 会見した篠永さんは「交通事故の後遺症で苦しんでいる患者は多く、診療に役立ててほしい」という。同症は未解明な部分も多く、1年ごとに改定する考えだ。

39人からノロウイルス 名古屋の介護老人施設入所者ら indexへ

 名古屋市緑区横吹町の介護老人保健施設「みどり」で、今月4日から17日までに、入所している高齢者や職員計39人がノロウイルスによる感染性胃腸炎にかかっていたことがわかった。下痢や嘔吐(おうと)の症状を訴えた人もいたが、全員が快方に向かっているという。
 市健康福祉局によると、ノロウイルスが検出されたのは入所者192人中31人と、職員8人。入所者の感染者の大半は施設2階に集中しており、集団感染したものとみている。最初に症状が出たのは今月4日で、その後の緑保健所の調査で感染が判明した。同保健所は施設に消毒などを指導したという。

米当局、タミフルの注意書き改訂 異常行動への監視強化 indexへ

 インフルエンザ治療薬タミフル(一般名オセルタミビル)を服用した日本の子らに異常行動の報告が相次いだことを受け、米食品医薬品局(FDA)は16日、米国内でのタミフルの注意書きに「異常行動の観察」を求める表示を追加することを決めた。「小児科助言委員会」に注意書きの改訂を諮問、了承された。日本では同様の表示が義務づけられており、これにならった形だ。
 FDAは、タミフル服用と異常行動との因果関係は「わからない」としている。日本の厚生労働省の研究班は先月、タミフル服用と子どもの異常行動に「関連性は認められなかった」とする研究結果をまとめている。
 しかし、FDAによると、最近10カ月間だけでも世界で103件の異常行動例が報告された。うち約7割が16歳以下の子どもだった。インフルエンザ脳症のような病気による症状と「違うケースもある」ことなどから、「細心の注意を払う必要がある」と、製造元のスイス製薬大手ロシュに注意書き改訂を求めた。
 報告された異常行動例は、著しい行動障害を伴う興奮や、妄想、発作など。マンションのベランダから転落するなどした死亡例も3件あった。103件のうち95件は日本の患者で、次いで米国5件、その他3件だった。
 日本のタミフル使用量(01〜05年)は世界の77%を占め、2位の米国の約4倍。子どもの使用量(同)は米国の約13倍にのぼる。日本で異常行動の報告が際立って多い理由として、こうした使用量の違いや遺伝的要因なども指摘されている。

病院でノロウイルス集団感染 1人死亡、1人重体 大阪 indexへ

 大阪府豊中市の介護療養型の坂本病院は、同病院分院(同市庄内東町3丁目)の入院患者や看護師、介護士ら20人が、11〜15日に吐き気や下痢の症状を訴え、患者1人が死亡し、1人が重体になっていると16日、発表した。検査した6人のうち5人の便からノロウイルスが検出された。
 病院によると、ノロウイルスが検出されたのは、79〜99歳の患者5人。このうち脳梗塞(こうそく)の後遺症で入院していた豊中市内の91歳の女性が14日、吐いた後に激しい呼吸不全を起こして死亡した。9日に自宅で刺し身を食べた介護士に下痢の症状が出ていたといい、集団感染との関連があるのではないかとみている。

緊急避妊薬、治験へ 厚労省「性感染症が増」と懸念 indexへ

 コンドームの破損などで避妊に失敗したとき、その72時間以内に服用すれば妊娠の可能性を低くできる「緊急避妊薬」の臨床試験(治験)が年内にも始まることがわかった。性行為後に行う緊急避妊について、厚生労働省は「コンドームの不使用につながり、性感染症が増える」などの理由で公的に認めていない。しかしこの数年、同様の効果が望める婦人病治療薬が本来の目的外で処方される形で普及している現実があり、議論になりそうだ。
 治験の準備が進んでいるのは仏で開発され、「ノルレボ」という名で欧州、韓国など約60カ国で販売されている薬。日本での販売権がある「そーせい」(本社・東京)が年内に始める意向を厚労省に伝えている。
 世界保健機関(WHO)は、無防備なセックスから5日以内で望まない妊娠を避けるための方法として、限定的に緊急避妊法を勧めている。ノルレボも含む有効成分の薬の場合、妊娠可能性を60〜90%低くすることができるといい、吐き気などの副作用がある。
 厚労省は「『性感染症も防げるコンドームの普及を阻むおそれがある』『安易な性行為が増える』などの懸念が根強くある」として、緊急避妊を推進していない。同様の懸念は低用量ピル(経口避妊薬)でももたれ、国内での承認までに9年かかった。
 一方で、内閣府がまとめた犯罪被害者等基本計画に基づく警察庁の施策では、今年4月から強姦(ごうかん)事件の被害者は緊急避妊薬を公費で得られるようになっており、政府が医師に目的外処方を求める「閣内不一致」な状態になっている。
 公的には存在しない緊急避妊薬だが、既存の婦人病治療薬を本来より多く服用することで近い効果が期待できるため、「避妊に失敗した」と駆け込んできた女性に目的外で処方している病院は少なくない。海外の承認薬を個人輸入して処方する医師もいる。厚労省も「違法性はない」と黙認している。
 日本家族計画協会クリニックの北村邦夫所長が昨年8月までに緊急避妊を求めて来院した663人に理由を尋ねたところ、「コンドームの破損」(42%)をトップに「避妊せず」(20%)、「コンドームの脱落」(17%)が続いた。北村医師は「望まない妊娠・中絶を避ける手段として緊急避妊を公的に認めるべきだ」と話す。
 治験は、薬の有効性や安全性を、実際、女性に服用してもらうなどして確かめる。その上で厚労省に承認を申請し、ゴーサインが出るには数年はかかるとみられている。同省の人口動態調査や衛生行政報告例によると、すべての妊娠の約2割が中絶に至っており、同省は中絶を減らす手だてを検討中だ。
 〈緊急避妊〉 コンドームや低用量ピルと異なり、性行為後にするのが特徴。欧州を中心に、70年代からホルモン剤を性行為後2回、間隔を置いて服用するヤツペ法が広がり、海外では00年ごろから緊急避妊だけを目的とする薬が普及した。日本では数年前から、ヤツペ法に基づき既存の婦人病治療薬を緊急避妊目的で処方されることがあり、「モーニング・アフター・ピル」などの名で知られている。

病院3割「火の車」、診療報酬下がり経営悪化 indexへ

 4月からの診療報酬引き下げなどの影響で、民間病院を中心に約3割の病院で経営が悪化し、医療行為にかかわる医業収支が赤字に陥っていることが、全日本病院協会の調査で分かった。とくに都市部の病院が厳しく、東京都では約6割が赤字。同協会は「診療報酬改定に加え、看護職員確保のための人件費増加などが経営を圧迫している」と分析している。
 調査は、協会に所属する約2200病院の中から500病院を選び、5月時点の経営の収支状況などを調べた。226病院(回答率45・2%)が回答した。
 それによると、医療行為にかかわる収支状況が赤字とした病院が27%を占め、前年同月より4ポイント増えた。地域別にみると、都内の23施設のうち赤字は61%で前年より14ポイント増。政令指定都市でも19%と前年より9ポイント増えたのに対し、その他の地域では24%で前年とほぼ同じだった。
 今回の診療報酬改定では、医療費抑制のため過去最大の引き下げ幅となった一方で、看護職員を手厚く配置すると高い収入が得られる仕組みになった。同協会は「病院間で看護職員の奪い合いが激化しており、首都圏を中心に人件費が上がっている」とみている。

埼玉医大の緑膿菌感染「半数近くは院内」 indexへ

 埼玉県毛呂山町の埼玉医科大学病院で04年1月から05年12月まで、抗生物質が効かない多剤耐性緑膿(りょくのう)菌が100人以上の患者から検出され、6人が死亡した問題を調べている調査委員会は14日、「4割から5割は院内感染の可能性が否定できない」と結論づけた。来週にも報告書をまとめ、病院側に提出する。
 委員長の木村哲・東京逓信病院院長によると、病院側が保管していた緑膿菌111株の遺伝子を、専門機関に依頼して解析したところ、遺伝子的に似ている株が全体の半数近くを占めることが分かったという。
 また、死亡した6人の死因と緑膿菌との因果関係については、1人は「否定できない」、もう1人は「否定できないが、関連性は薄い」、残り4人は「関係なし」とした。

糖尿病患者向け注射針に欠陥、自主回収へ indexへ

 医療機器メーカー「日本ベクトン・ディッキンソン」(本社・東京都)は14日、輸入販売している注射器用使い捨て針の一部製品に、注射液が注入できない欠陥があったとして、同日から自主回収を始めた、と発表した。回収対象は2400万本程度となりそうという。
 同社によると、欠陥が見つかったのは、糖尿病患者がインスリン注射をするのに使う注射針「B―Dマイクロファインプラス」。今月2日以降、注入できないなどの報告が9件あった。同社製品は、自分でインスリンを注射している糖尿病患者約100万人の3割強程度のシェアだという。
 問い合わせは、15日は同社のお客様情報センター(0120・8555・90)、16日以降は専用ダイヤル(0120・1214・55)へ。

がん死の原因、男性たばこ4割 厚労省 indexへ

 がんで死亡した男性の約4割、女性の5%が、たばこが原因と考えられるとする推計を厚生労働省の研究班(主任研究者=祖父江友孝・国立がんセンターがん情報・統計部長)がまとめた。年間約8万人がたばこでがん死したことになる。
 研究班は、国内で83年から03年に実施された三つの10万人規模の調査データについて詳しく調べた。対象は調査開始時40〜79歳の男性13万9974人、女性15万6796人の計29万6770人。
 調査開始時の喫煙経験率(たばこを吸っている人と過去に吸っていたがやめた人の割合)は、男性79.5%、女性10.5%。平均9.6年追跡した結果、がんで死亡したのは男性6503人(うち喫煙経験者5668人)、女性3474人(同499人)。年齢を調整して解析した結果、喫煙経験がある人は、ない人に比べ、男性で1.79倍、女性で1.57倍、死亡率が高かった。
 食事や運動など喫煙以外のリスクが同じと仮定すると、がんで死亡した男性の38.6%、女性の5.2%がたばこが原因となった。人口動態統計にあてはめると、年間に男性約7万4000人、女性約7000人がたばこが原因でがん死した計算になる。
 男性では、吸ったことがない人に比べ、調査開始時に喫煙していた人の死亡率は1.97倍、過去に吸っていたがやめた人は1.5倍で、禁煙の効果もうかがえた。

医師に過失なしとした二審を破棄 医療過誤訴訟で最高裁 indexへ

 千葉県市川市の「日下部病院」で腸のポリープの摘出手術を受けた同市内の男性(当時56)が術後に死亡したことをめぐり、遺族が同病院を経営する医療法人と医師に損害賠償を求めた訴訟の上告審判決が14日、あった。最高裁第三小法廷(藤田宙靖(ときやす)裁判長)は「医師の過失や死亡との因果関係について相反する内容の2通の鑑定書を十分に比較検討しなかった」として二審・東京高裁判決を破棄。審理を同高裁に差し戻した。
 判決によると、男性は00年4月下旬、結腸ポリープの摘出手術を受けたが、約1週間後に急性胃潰瘍(かいよう)による出血性ショックで死亡した。
 一審・東京地裁は「十分な量の輸血をしなかった過失がある」として約8000万円の賠償を命じたが、二審・東京高裁は「医師に過失はなかった」と判断して遺族側の請求を棄却した。
 第三小法廷は、一審が根拠とした「迅速な輸血をすれば救命の可能性が高かった」という遺族側提出の鑑定書について「合理性を否定できない」と述べた。そのうえで、「病院側提出の鑑定書をそのまま採用して医師に過失はない、とした二審の事実認定の仕方は違法だ」と結論づけた。

万波医師「世間に何と言われるか…」 単独インタビュー indexへ

 腎がんなど病気の腎臓で移植を繰り返していた宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波誠・泌尿器科部長(66)が12日、朝日新聞のインタビューに応じ、「がんの腎臓を移植していると世間の人が知ったら、何と言われるかわからないという気持ちはあった」などと当時の心情を初めて吐露した。さらに、「いつか論文で発表しないといけないとは思っていた」と言いつつ、「患者の記録はもう残っていない」などと矛盾も見せた。一問一答は次の通り。
 ――移植した腎臓のがんが再発することはないのか。
 4センチ以下の小さながんなら、(切除すれば)再発はほとんどない。それでも、「再発したら嫌だからどうしても取ってくれ」と言われて摘出した。移植する患者には、がんの腎臓と説明し、「それでもええか」と聞いた。説明が足りないと言われるかもしれないが、患者は再発率何%などという数字に興味がない。「あんたはどっちと思っておるのか」と聞かれ、「再発せんと思う」と言ったら、「じゃあ、やってくれ」となった。
 ――移植の可否は腫瘍(しゅよう)の大きさで判断するのか。
 腫瘍が4センチに近かったらもうやらん。そういう腎臓は捨てとる。
 ――他の医師から理解されると思っていたか。
 世間の人から何を言われるか、という気持ちはあった。だから、閉鎖的な日本の学会ではなく、米国の雑誌でいつか発表しようと思っていた。これだけ透析患者がいるのに、日本の学会は何も対策を打ってきていない。
 ――患者のカルテや記録は残っているのか。
 5年より前のものは残っていない。市立宇和島病院時代の記録は焼き捨てられたと聞いた。
 ――それでは論文など書けないが。
 ないんだから仕方ない。これからやったものを何年か先に書く。
 ――市立宇和島病院の調査でドナー欄が空白のカルテが見つかっている。
 なんでかわからん。そういう腎臓(病気腎)だったのかもしれん。書き忘れたのかもしれん。
 ――患者の同意を文書で残さなかったのはなぜ?
 書類は病院や医者が裁判になった時に自らを守るためのもの。それよりも信頼関係が大切と思っている。
 ――移植する患者はどうやって決める?
 その時、一番気になっている患者。本当に困っている人だ。患者の状態や移植への希望度、家族を養っているとか、色々な要素を考える。病気腎はめったに出るものじゃない。あらかじめ順位など決めていない。出たときに考える。
 ――患者から金銭を受け取ったことは?
 絶対にない。「これ、気持ちじゃ」と言って鶏の卵を持ってくる人はおる。そういうのは受け取ることもある。
 ――ネフローゼ症候群で腎臓を摘出した理由は。
 あらゆる治療をしたが、尿のたんぱくが下がらなかった。最後に「この腎臓がたんぱくを出しているわけやから、取ったらどうですか」と言ったら、「なんでもいいからやってくれ」と言われた。今はいい薬がたくさんあるが、昔の医学書には腎摘出することもある、と書いてある。
 ――ほかの医師が病気腎をやらないのはなぜだと思うか。
 それは個人個人。わしは何百例もやっているから使える腎臓だとすぐわかるが、移植をしたことがない人なら、おそらく思いつかないだろう。

ドナーの本人確認、腎移植施設の2割「特にせず」 indexへ

 全国の腎移植施設のうち、生体腎移植に際して臓器提供者(ドナー)の本人確認について「特別な確認はしていない」施設が約2割もあることが日本移植学会(田中紘一理事長)のアンケートで分かった。このため、同学会は13日の臨時理事会で「健康保険証や写真付き公的証明書による本人確認を徹底する」など3項目を学会の倫理指針に追加することを決めた。
 アンケートは、宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)での生体腎移植に絡む臓器売買事件を受けて実施した。腎移植実施機関238施設のうち204施設が答えた(回答率86%)が、うち41施設(20%)がドナーの本人確認をしていなかった。
 ドナーが親族かどうかの確認は165施設(81%)が「自己申告」。11施設(5%)は倫理委員会が「ない」と回答し、施設長の承認や診療科の判断で倫理審査を行っていたとした。腎臓の提供が自発的かどうか文書で確認を求めている施設も105施設(51%)にとどまった。
 この結果などを受け、倫理指針には本人確認の徹底のほか「ドナーの自発的意思は倫理委員会が指名する精神科医など第三者が確認する」「金銭の授受などが疑われた場合は即座に移植を中止する」ことを盛り込んだ。当面は生体腎移植に限るが、いずれは生体移植全般に広げる方向だ。
 移植学会は14日、臓器売買事件に関する声明を同学会員あてに送る。国内外を問わず、すべての移植医療で倫理指針の順守を会員に求めるとともに、同学会に所属しない医師による移植手術を認めないよう各医療機関に求める内容になる見込みという。

病気腎摘出、妥当か調査 提供病院対象に厚労省 indexへ

 愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院などで病気で摘出された腎臓が移植されていた問題で、厚生労働省は13日、腎臓を提供した病院についても、摘出手術が医学的に適切だったかなどの調査に乗り出すことを決めた。日本移植学会や日本泌尿器科学会と連携し、今月中に専門家による調査班を発足させ、年内に調査結果をまとめる予定だ。
 移植された病気腎については、がんや動脈瘤(りゅう)、ネフローゼ症候群などが摘出理由になっているが、同病院の万波誠・泌尿器科部長を中心とする移植医グループで臓器がやりとりされていたことが明らかになり、摘出そのものが必要な病気や病状だったのかなどが問われている。
 厚労省によると、調査班は、移植学会などから腎移植と泌尿器科の専門医を2人ずつ派遣してもらうほか、医学関係の有識者や摘出病院の関係者ら約10人で構成し、厚労省内に事務局を置く。摘出病院からカルテなどの情報提供を受け、(1)摘出手術が医学的に正しい判断で行われたか(2)摘出は病院内で正規の手続きで行われていたか、などについて調べる。
 同省臓器移植対策室は「仮に必要のない臓器摘出だったとすれば、移植医療の信頼を大きく損なう問題。国や学会が連携して事実を究明する必要がある」としている。
 厚労省はすでに、同病院や市立宇和島病院、広島県の呉共済病院など病気腎の移植が行われ、院内に調査委員会などを設ける病院に対しては、外部の専門家を加えて移植の経緯などを調べるよう指導している。

「種子」を体内に埋め、心臓弁製造 実験成功 indexへ

 背中にシリコーン製の「種子」を埋め込み、自分の細胞に覆われた人工の心臓弁をつくることに国立循環器病センターと京都府立医大のグループが動物実験で成功した。生体になじみ、拒絶反応が起きないヒト向けの人工の心臓弁への応用が期待される。今後、動物に移植する実験をする。
 国内では心臓弁膜症などの患者に対し、人工の心臓弁を植え付ける手術が、年間1万件以上実施されている。現在は、金属などでできた機械弁や、ウシやブタの心臓を材料にした生体弁が使われている。しかし、機械弁の場合、患者は血液が固まらない薬を飲み続けなければならず、生体弁も20年程度で寿命が来る。実験はこうした欠点を補う人工の心臓弁をつくろうというものだ。
 シリコーンとポリウレタン製の「種子」をイヌ(弁の直径5センチ)とウサギ(同2センチ)の背中の皮膚の中に埋め込む。「種子」は1カ月ほどで、自然の修復作用でコラーゲンやコラーゲンを作り出す細胞で覆われる。約1カ月後に取り出して、弁としての機能や強度を確かめたところ、血液の逆流や漏れはほとんど起きておらず、弁の劣化もなかったという。
 強度は生体弁の6〜8割だが、同センター研究所生体工学部の中山泰秀室長は「患部に定着すれば実用に耐えうる」と話している。
 中山さんらは、「種子」を体内に埋めて自分の組織に覆わせる同じ方法で、直径2ミリ程度の微細な血管をつくり、臨床研究の準備も進めている。

病気腎移植、悔いる医師 「万波氏、絶対の存在」 indexへ

 病気の腎臓で移植を繰り返していた宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波誠・泌尿器科部長(66)を中心とする移植医グループの手術に立ち会った医師4人が、朝日新聞の取材にそれぞれ応じ、当時の状況などについて証言した。万波医師らの高度な医療技術を認めながらも、臨床の常識を超えた手法に強い疑問を感じていた、という。自分の患者の臓器を他人に渡したことへの反省の弁も聞かれた。
 宇和島市立宇和島病院に勤務していた男性医師は数年前、同病院にいた万波医師が手がけた病気腎移植にかかわった。ネフローゼ症候群の患者から腎臓を摘出し、腎不全の女性に移植したが、万波医師はその理由を同僚の医師たちに詳しく説明しなかった。
 「ドナー(臓器提供者)にとっては悪いことしか起きない腎臓だから取るが、ほかの人に入れたら機能する可能性がある」。男性医師がそう聞いたのは、別の泌尿器科の医師からだった。「こんな方法もあるのか、という程度にしか感じなかった」と振り返る。
 だが手術後、立ち会った医師たちから「あんなことをやってよかったのだろうか」「別の方法で治療できたのではないか」などの声が上がった。その後、ほかの専門医らと意見交換し、「ドナーにきちんと説明をしたのだろうか」と疑問を感じるようになった。
 万波医師は7日の記者会見で、病気腎の移植について「医療チームで討議した」と説明したが、男性医師は「一度もそうした場に加わったことがない」と主張する。「そもそも万波氏は当時の病院内では絶対的な存在。反論しても無駄という雰囲気があった」
 移植を再考するよう患者に助言しようと考えたこともあるが、関係がこじれるのが嫌でためらった。「問題のある医療に手を貸してしまった」。そんな思いが残る。
 鹿児島徳洲会病院(鹿児島市)で00年9月、万波医師が腎動脈瘤(りゅう)を患った女性(70)から腎臓を摘出する手術に、助手として立ち会った外科医(43)は、手際よくメスを握る万波医師を見て違和感を感じた。
 腎臓につながる腎動脈にできた瘤は直径1センチ弱。臓器を取り出さずに瘤を切除すれば足りる、と感じたが、万波医師は術前から腎臓を移植用に使う趣旨の話をし、手術室には臓器の保存液が用意されていた。「初めから『移植ありき』の構えだった」。患者の手術同意書を見たが、「移植」という言葉は一切なかったという。
 今年5月、万波医師の弟、廉介医師(60)によって摘出された腎臓が宇和島徳洲会病院へ送られた岡山市の川崎医大付属川崎病院で、摘出患者の主治医だった男性医師は今、「軽率だった」と後悔しているという。
 患者の腎臓には大きな良性の腫瘍(しゅよう)があり、摘出以外に方法はなかった。廉介医師に応援を頼むと、「移植に使っていいか」と聞かれ、患者の了解を取ったうえで承諾した。だが主治医に移植の経験はなく、日本移植学会にも所属していなかったため、非親族間の移植は院内の倫理委員会に諮るという手続きを知らなかったという。
 岡山県備前市の市立吉永病院でも同7月、廉介医師ががんの疑いがある腎臓を摘出。当時の主治医は「病理検査のために持ち帰る」と言われ、信用してしまった。「今回の問題に巻き込まれ、気が重い。ほかの医者に頼めばよかった」

脳卒中リハビリ、「やる気」次第? indexへ

 脳卒中後のリハビリで、患者の「やる気」が回復具合にどう影響するのかを調べる日米欧の共同研究が、今冬からスタートする。脳卒中は後遺症でうつ病になる患者も多く、うつになると回復も悪いことが知られているが、意欲との関連はよくわかっていない。研究では、リハビリ後に励ましの言葉などをかけ続けた患者と、何もしなかった患者とで半年後の回復ぶりを比較する。
 国際神経リハビリテーション学会連合に参加する日本、米国、英国など25地域のリハビリ病院などが参加、全世界で750人程度の症例を集める。日本からは、森之宮病院(大阪市)などが参加する。2年後をめどに結果をまとめる。
 脳梗塞(こうそく)や脳出血で倒れた35歳以上の患者で、まひなどの後遺症があり、歩行訓練をしている人が対象。2グループに分け、どちらにも通常のリハビリを受けた後、10メートルの距離を歩いてもらう。一方の集団には毎回タイムを知らせ、「よくがんばりましたね」などと励ましの言葉をかける。もう一方には、何もしない。こうした取り組みを約半年続けた後、15メートルの歩行速度と3分間の歩行距離を比較する。
 研究に参加する森之宮病院の宮井一郎院長代理は「ただ漫然とリハビリを続けるより、やる気を持った方が成果が出ると証明できれば、患者の意識も変わってくるはず。リハビリの現場も変わってくる」と話す。

東京女子医大病院に戒告 カルテ改ざんで社会保険事務所 indexへ

 東京女子医科大病院(東京都新宿区)で01年3月、群馬県高崎市の平柳明香さん(当時12)が心臓手術ミスで死亡した事件をめぐり、東京社会保険事務局は10日、元同病院医師、瀬尾和宏氏(50)の保険医登録を取り消すとともに、同病院への戒告措置を決めた。医療事故を隠す目的で行ったカルテの改ざんを理由に、保険医登録が取り消されるのは初めて。厚生労働省などは今後、民事訴訟などで隠蔽(いんぺい)目的のカルテ改ざんが明らかになれば、調査に乗り出す方針だ。
 厚労省などによると、瀬尾氏は手術ミスを隠すため、看護師らに人工心肺やICUの記録を書き換えるよう指示し、改ざんさせた。瀬尾氏は今後5年間、保険医の再登録ができない。
 同病院への戒告は、改ざんを防げなかった監督責任と、別の入院患者から差額ベッド代約37万円を不正に徴収していたことが理由だ。
 また同病院については、カルテの記載が不十分だった不当な診療報酬請求がほかに計約104万円あることも判明。厚労省などは同病院に返還を命じるとともに、不当な診療報酬請求がほかにもある可能性が高いとみて、過去5年間分の記録について調べている。
 父親の利明さん(56)と母親のむつ美さん(46)は同日記者会見し、瀬尾氏の処分について「医療事故を隠すためのカルテ改ざんを防ぐ前例となってほしい」と評価。同病院への戒告については「保険医療機関の取り消しに近い戒告だ。病院幹部は重く受け止めて、出処進退を判断してほしい」と述べた。
 同病院の永井厚志院長は「過去に当病院の医師が、あってはならない不正行為をしたことに大変に憤りを感じる。医療監査で指導を受けた不適切な請求については非常に重く受け止めている」との談話を出した。

病気腎移植、91年に愛知でも 瀬戸内グループとは別m indexへ

 宇和島徳洲会病院の万波誠医師が率いる「瀬戸内グループ」による病気腎移植が問題になっているが、愛知県豊明市の藤田保健衛生大学病院で91年ごろ、病気腎移植が1例あったことが9日、分かった。「瀬戸内グループ」以外で、病気腎移植の実施が判明したのは初めて。当時は病院に倫理委員会は設置されていなかった。しかし、執刀医は「現在の臓器移植ネットワークに代わる県内の腎バンクを通して移植患者の紹介を受けた」と話し、任意に移植患者を選んできた瀬戸内グループとの違いを強調している。
 執刀した同大の星長清隆教授によると、腎臓を提供したのは当時30歳の男性。20歳ごろ、腎血管性高血圧症と診断され、薬物治療を受けていた。症状が悪化して仕事に支障が出たため、藤田保健衛生大病院に入院。血管に直径1.5センチの動脈瘤(りゅう)が見つかったため、いったん腎臓を摘出し、動脈瘤の治療をした後、再び患者に戻す自家移植などを勧めた。
 しかし、患者は病気の再発を恐れ、腎臓を戻すことを強く拒否。血液型が輸血が難しいRhマイナスであるため、自家移植時の出血も心配した。このため、星長教授は自家移植を断念し、腎臓の状態がよかったことから、他人への移植を提案し、同意を得た。
 星長教授はこうした経過を93年に開かれた日本腎移植臨床研究会でスタッフ14人の連名で発表した。「当時は大きな反響はなかったと記憶している」と説明する。

ワイヤ抜き忘れ、静脈に1年 太ももから胸まで60cm indexへ

 東京都葛飾区の東京慈恵会医科大学付属青戸病院(臼井信男院長)で、都内に住む60代男性患者の静脈に、点滴用のカテーテル(細い管)を深く挿入するために誘導するガイドワイヤが1年以上にわたって放置されていたことが9日分かった。ワイヤは太ももの付け根から胸部まで約60センチあった。今年9月に患者が胸の痛みを訴えて発覚。病院側は10月24日にワイヤを取り出したうえで男性に謝罪した。いまのところ、後遺症などは出ていないという。
 病院によると、男性は昨年8月、左尿管結石による腎不全で入院、腎臓への治療を受けた。その後、脱水症状を防ごうと水分補給用のカテーテルを左足の付け根から心臓付近までの静脈に設置するため、ステンレス製で太さ0.71ミリのガイドワイヤを挿入した。ワイヤはカテーテルが設置されると抜き出されるものだが、そのまま放置されていたという。
 その後のX線検査でワイヤは写っていたものの、担当した男性医師(29)は治療用に設置されたほかのカテーテルと見間違い、置き忘れに気付かなかったという。
 病院は10月、事故調査委員会を設置し、医療ミスと認めたうえで、男性医師を口頭で指導。患者に後遺症がなかったため、院内の基準で公表はせず、東京都と警視庁亀有署に報告したという。
 同病院では02年11月、前立腺がんの男性患者(当時60)に難度の高い腹腔(ふくくう)鏡手術を選択し、大量出血を起こして、1カ月後に死亡させた医療事故が起きている。
 臼井院長は「医師への指導やチェック体制などの防止策をつくっていきたい」と話している。

広島・呉の病院、病気腎移植が別に4件 indexへ

 病気腎移植問題で、広島県呉市の呉共済病院の光畑直喜・泌尿器科部長(58)は8日、すでに明らかにしている91年の摘出・移植以外に、97〜01年にかけて5件の病気腎移植を実施していたことを明らかにした。4件は万波誠医師(66)がいた宇和島市立宇和島病院、西光雄医師(58)がいる香川労災病院(香川県丸亀市)と、三原赤十字病院(広島県三原市)から腎臓の提供を受けていた。「瀬戸内グループ」の医師がいた病院を中心に、病気腎を互いに融通していた構図が浮かび上がった。
 岡山協立病院(岡山市)も8日、01年2月下旬に当時泌尿器科部長だった万波廉介医師(60)が水腎症の腎臓を摘出、市立宇和島病院で移植されたと発表した。三原赤十字病院も呉共済病院への提供例以外に、03年にも市立宇和島病院に尿管がんの腎臓を提供していたことを明らかにした。いずれも廉介医師が訪れて摘出したという。
 これで、病気腎移植関与が判明したのは計10病院(岡山県4、愛媛2、広島2、香川、鹿児島各1)で、宇和島徳洲会を除く9病院が他病院に提供、市立宇和島、宇和島徳洲会、呉共済の3病院が他からの病気腎を移植していた。万波誠医師は8日夜、「お互いにやっていた」と話し、病気腎を複数病院間で融通し合っていた実態を認めた。
 8日夜、記者会見した呉共済病院の光畑医師らによると、▽97年に三原赤十字から下部尿管がんの腎臓▽01年に香川労災から下部尿管がんの腎臓2件▽01年に市立宇和島から腎がんの腎臓を提供された。このほかに、97年に呉共済病院で動脈瘤(りゅう)が見つかった腎臓を同病院の別の患者に移植していた。すべて非親族間で、摘出、移植の双方の患者側から同意はとっていた。移植を受けた5人のうち4人が生存していることを確認しているという。また、同病院で摘出した腎がんの患者の腎臓を5年以上前に市立宇和島病院に送った例もあった。

病気腎移植「でも感謝」 万波医師患者「他に方法なし」 indexへ

 病気の腎臓で生体腎移植を重ねていた宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波誠・泌尿器科部長(66)から「病気腎」の移植を受けた同県内の男性患者3人が、朝日新聞の取材に答え、現在の心境を吐露した。万波医師は「事情を十分説明した」と強調しているが、がん再発のリスクや臓器提供者(ドナー)の病名を聞かされていなかった患者もいた。ただ、それぞれが万波医師に感謝の意を示し、「自分の命を救ったために、先生が批判されるのはつらい」と口をそろえた。
 60代の男性はこの夏、腎臓病が悪化して人工透析を始めた。同病院に入院して2カ月近くたつころ、万波医師が病室を訪ねてきて、こう告げた。「腎臓が見つかった。でも、動脈瘤(りゅう)があるんや」
 万波医師は、動脈瘤がどんな病気かを詳しく説明。「処置をきちんとしてから移植するが、再発する可能性がないとはいえない。でも、僕が執刀した中で、そうなったケースはない」と話した。男性は移植を希望し、3日後、手術は成功に終わった。
 今では仕事にも復帰し、発病前の生活を取り戻しつつある。「万波先生には心から感謝している。学会が問題にするのなら、十分調べてからにしてほしい。患者のために先生ほど努力をしている人がいるだろうか」と訴える。
 50代の男性は今年5月、万波医師から病気腎の移植を打診された。「がんを切除すれば腎臓を体内に戻せると説明したが、摘出を希望する患者と家族が香川の病院にいる。宇和島まで運んでくるが、どうか」
 がんが再発する心配はないか、と計3回尋ねたが、万波医師は3回とも「大丈夫と思う」と答えただけで、再発の確率がどれくらいか、などの説明はなかった。それでも、信頼していたので移植を受けることを決めた。
 男性は、04年12月にも万波医師の執刀で病気腎の移植を受けている。その時は病状が重く、話が聞けなかったため、親族が代わって説明を受けたという。
 「死体腎移植が期待できない現状では、私のように遺伝性疾患があり、親族から生体移植ができない患者は、ほかに命をつなぐ希望はない。再発の確率が2、3割なら喜んで移植を選ぶ」と話した。
 「移植できそうな腎臓が出そうだが、手術しますか」。万波医師は今年2月にも、50代の別の男性にこう切り出した。
 男性は詳しい説明を求めることもなく、「お願いします」と頭を下げると、「取り出してみたら移植できない腎臓かもしれない。判断は私に任せてほしい」と言い残し、病室を後にした。手術は3日後だった。
 04年暮れ、母親から腎臓の提供を受けたが、別の手術をしたのを機に病状が悪化。人工透析の生活に戻り、全身のかゆみに悩まされていた。「どうしても再移植を受けたかった」
 今年10月、宇和島徳洲会病院を舞台にした臓器売買事件が発覚。県警の捜査員が参考人として事情を聴きに来た。その際、ドナーになったのが、同病院に入院中だった70代の男性と初めて聞かされた。
 「先生は25年以上にわたる主治医。人柄は分かっているし、信頼があれば説明はいらない。病気の腎臓と知った今も、その気持ちは変わらない」

病気腎移植、患者団体が疑問表明 indexへ

 愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院で病気の腎臓が移植に使われていた問題で、臓器移植を受けた患者ら5団体でつくる「臓器移植患者団体連絡会」(大久保通方代表幹事)は8日、厚生労働省で会見し、「疑問を明らかにし、ルール作りに取り組む必要がある」などとした声明を発表した。
 声明は、病気腎移植について、(1)臓器を摘出する必要があったのか(2)提供者に経緯を説明し、同意を得たのか(3)患者にリスクを説明し同意を得たのか(4)患者は公正に選ばれたのか、という疑問点を挙げた。厚労省に対しても、生体移植の早急なルール作りに取り組むよう求めている。
 大久保代表幹事は「将来への危険性などが専門家によって議論もされていないのに、一部の医師グループで判断した。しかも、医師たちは何も悪いことはしていないと思っている。倫理観が全く違う」と批判した。
 また、「全国心臓病の子どもを守る会」の福岡靖人副会長は「(68年に)問題となった和田移植が再現したと私たちは思っている。あのことが今の臓器移植を厳しくした。それをやっと立て直そうという時期なのに……」と話した。

病気腎移植で市立病院を本格調査へ 宇和島市 indexへ

 宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波誠・泌尿器科部長(66)が病気の腎臓を移植に使っていた問題で、宇和島市は8日、新たに「病気腎」移植が判明した市立宇和島病院に対し、本格調査に乗り出す方針を決めた。同病院の調査で、01年から03年の間に非親族間とみられる腎移植例が計14件あったことがわかっており、さらに調査範囲を広げて病気腎と疑わしいケースを把握したうえで、近く当時の院長ら病院関係者から事情を聴く考えだ。
 宇和島徳洲会病院で11件の病気腎移植を手がけた万波医師は、70年から04年まで市立宇和島病院に在籍。7日の記者会見では、90年ごろから同病院で10〜15件の病気腎移植を実施したことを明らかにしている。
 同病院によると、記録が残っている01年以降を対象とした調査で、臓器提供者(ドナー)と移植患者との関係について、カルテの続き柄欄が空白だった例が5件あったほか、「不明」「病院」と記されたケースも各1件確認された。「知人」「友人」との記載も計7件あったという。市川幹郎院長は「(ドナーに関する記述がないことは)隠そうとしたと思われても仕方がない。移植患者が事情を知らされていなかった可能性もある」との見解を示している。
 万波医師が00年9月、鹿児島徳洲会病院(鹿児島市)で病気腎を摘出し、市立宇和島病院で移植したとされる件についても、同病院の手術台帳で腎移植が実施されたことが確認できたという。
 石橋寛久市長は「常識では考えられず、大変残念に思う。病院側と協力し、可能な限り調べたい」と話している。

患者殴打とカルテ改ざん PTSD医師と国に賠償命令 indexへ

 国立精神・神経センター国府台病院(千葉県市川市)で心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療を受けた千葉県の女性が診察中に医師から殴られて難聴になったなどとして、医師と国に計約895万円の賠償を求めた訴訟の判決が8日、東京地裁であった。野山宏裁判長は医師による殴打とカルテの改ざんを認定。医師と国に約153万円の支払いを命じた。
 賠償を命じられた医師は同センター精神保健研究所の金吉晴・成人精神保健部長。国内のPTSD治療の第一人者で、関係学会の会長も務めた。
 判決によると、金医師は02年12月、診察中に身体感覚がまひして「解離」状態になりそうになった女性から「たたいてください」と言われ、顔を平手で強打。難聴などの障害を負わせた。センターの内部調査終了後の03年4月以降、カルテに診断名や治療法などを書き加えて改ざんした。
 国立精神・神経センター国府台病院は「カルテに追加記載はしたが改ざんではないと主張していた。判決内容を十分検討したい」としている。

厚労省笛ふけど、都道府県踊らず 医療費の抑制計画 indexへ

 各都道府県で医療費抑制のための医療費適正化計画を検討し、実行するように、厚生労働省が各自治体に首長クラスを長とする推進組織の設置を求めているにもかかわらず、知事、副知事をトップにしているのは6府県にとどまっていることが分かった。厚労省は都道府県を医療費抑制の「実行部隊」と位置づけるが、「笛吹けど踊らず」の状態だ。
 今月1日の時点で知事を長とする組織を発足させたのは岩手のみで、副知事が山形、大阪など5府県。青森は知事がトップの組織設置を検討している。
 東京や福岡など32都道府県は組織自体はつくったが、トップを務めるのは健康福祉部長などナンバー3以下。神奈川や茨城など8県では組織自体がまだできていない。
 適正化計画では、療養病床の削減数や健康保険の受診率について、国が示した数値目標に基づき都道府県が具体的な計画を策定、08年度から実施する。自治体側の協力が得られなければ、適正化計画自体が成り立たなくなる恐れもある。
 6日に都道府県の担当者を集めて開かれた会議で、厚労省は「医療費の適正化計画には幅広い部局の協力が必要。改革が実現すれば都道府県の負担も08年度で500億円程度削減できる」として、知事・副知事をトップにすえた組織にするよう再検討を求めた。
 これに対し、福祉保健部長がトップの広島県の担当者は「国も県も事務的な基礎づくりをしている段階。知事と話し合うことではない」。健康福祉部長を長とする愛知県は「部内の各課の連携で十分」と話した。

万波医師、説明覆す 「前の病院でも」 病気腎移植 indexへ

 愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院で、病気の患者の腎臓が移植に使われていた問題で、同病院での「病気腎」移植11件をすべて手がけた万波誠・泌尿器科部長(66)が7日、前勤務先の市立宇和島病院でも同様の移植を繰り返していたことを明らかにした。万波医師はこれまで、宇和島徳洲会病院に移った04年から病気腎の移植を始めた、と主張していたが、発言を翻したことで「万波移植」の実態はさらに広がりを見せそうだ。
 万波医師は市立宇和島病院に勤務していた00年9月、鹿児島市の鹿児島徳洲会病院で動脈瘤(りゅう)の女性患者(70)から腎臓を摘出。宇和島に持ち帰って別の女性(52)に移植していた。このケースについては6日夜、「患者や病院に迷惑をかけたくなかった」と釈明し、事実関係を認めている。
 7日朝、ほかの病気腎移植の実施について報道陣から質問された万波医師は「やったんじゃからいいやろ」などと発言。複数回の移植手術を執刀したことを認めた。
 一方、万波医師が04年9月、宇和島徳洲会病院でネフローゼ症候群が悪化した50代の男性患者から両方の腎臓を摘出し、それぞれを2人の患者に移植していたことがわかった。男性はその後、万波医師から別の病気腎の移植を受けたという。同一人物が臓器提供者(ドナー)と移植患者になった特異な移植の実態が浮かび上がった。
 県などの説明では、男性は、尿から多量のたんぱく質が出るネフローゼ症候群を患い、症状が悪化したため、万波医師が執刀して同病院で左右の腎臓の摘出手術を受けた。摘出前、万波医師から「ほかの人には合うかもしれないので、移植に使っていいか」と聞かれ、承諾したという。
 男性は摘出後、母親がドナーとなって腎移植を受けたが、機能しなくなり、今年2月に別の腎臓の再移植を受けた。その際、万波医師から病気の腎臓との説明はなく、秋になって関係者から入院患者がドナーになったことを聞かされたという。
 近畿大堺病院泌尿器科の秋山隆弘教授は「ドミノ移植のように健康な臓器を移植して病気の臓器を摘出し、別の患者に移植するケースはあるが、このような事例は考えられない。ネフローゼは薬による治療が中心で、わざわざ二つとも摘出する必要はない」と話す。

万波医師、移植患者の選択は「気まぐれ」 登録制度なし indexへ

 愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院が、病気の患者の腎臓を別の患者に移植していた問題で、同病院には移植を待つ患者を事前に登録して優先順位を決めておくシステムがなく、腎臓の提供があるたびに万波誠・泌尿器科部長(66)が恣意(しい)的に移植患者を選んでいたことがわかった。万波医師は朝日新聞の取材に、「リストもなければ計画性もない。出合い頭だ」と語った。臓器を公平に患者に分配するという移植医療の基本原則を逸脱しており、「万波移植」への批判がさらに高まりそうだ。
 万波医師や弟の廉介医師(60)らのこれまでの説明によると、病気の腎臓を摘出する際には、移植に使うことを想定して臓器の保存液などを用意。同病院以外の医療機関で摘出手術が行われる場合は、スタッフが出張して臓器を持ち帰るなど、移植を前提に摘出手術が進められた可能性がある。
 一方、摘出された腎臓を移植する患者の選び方について、万波医師は5日、「腎不全の患者は大勢いる。腎臓を取り出した後、血液型などを調べて、合致する患者がいればやる」と説明。計画性については、「優先順位を決めたリストなんてない。気まぐれ。つらそうな顔をしていた患者は覚えている。家族がいるのに、人工透析があるから働けないような人を(移植のために)呼ぶ」と話した。
 脳死や心停止後の臓器移植について規定している臓器移植法は、臓器をあっせんする事業者は厚生労働大臣の許可を受けなければならない、と定めている。営利目的の臓器あっせんを防ぎ、移植患者を公平、公正に選ぶためで、「日本臓器移植ネットワーク」を介さない移植はできないことになっている。

病気腎移植問題、厚労省も実態調査へ indexへ

 厚生労働省は6日、愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院が病気で摘出された腎臓を移植していた問題で、愛媛県や日本移植学会と連携し、明らかになった11件の移植などについて実態調査を進める方針を固めた。国が医療現場の個別事例の調査に乗り出すのは異例。今後、どのような法的根拠に基づき、どのような調査が可能かを詰める。
 病気の患者から摘出された臓器を移植することについて、同省は「医療の安全を守る上で、大きな問題がある」と判断。他県で摘出された臓器が使用されるなどしているため、情報収集の連携を図り、調査に必要な専門医の派遣のあっせんなどをしていくという。
 同病院は、腎臓を摘出された患者が移植に同意していた件についても、外部の専門家を加えた委員会を設置して調べている。しかし、移植を手がけた医師が学会に所属しておらず、学会が医師や病院の調査に積極的に乗り出せないでいるため、行政も参加した実態解明が必要と判断した。

宇和島徳洲会病院に立ち入り調査へ 病気腎移植で社保局 indexへ

 愛媛社会保険事務局は6日、病気で摘出された腎臓を別の患者に移植した宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)からの診療報酬請求が妥当だったかどうかを確認するため、同病院に立ち入り調査する方針を決めた。診療報酬の規定では、「病気腎」の移植を請求することは想定されておらず、病院スタッフらからの聞き取り調査など、移植の詳しい経緯を調べる。
 同病院などによると、病気腎の移植に伴う診療報酬請求は計11件。内訳は尿管狭窄(きょうさく)と腎がんが各3件、動脈瘤(りゅう)と良性腫瘍(しゅよう)が各2件、ネフローゼ症候群が1件だった。
 同事務局は「病気の腎臓を移植した場合、請求ができると明記されていない」としており、それぞれの摘出手術と移植手術についての中身を分析し、請求の妥当性を判断する。
 愛媛県は6日、病気腎移植の実態を解明するため、同病院への調査を始めた。院長ら責任者に対し、県宇和島保健所に出向いて今回の経緯を報告するよう求めた。

結核で1年以内の死亡、10年で2倍に 結核予防会調査 indexへ

 結核にかかって治療を始めた人のうち、1年以内に死亡する人の割合が10年間で2倍になっていることが、結核予防会結核研究所(東京都清瀬市)の調査で分かった。高齢者やほかの病気で抵抗力が弱まった患者の増加が背景にあるとみられている。
 同研究所の推計によると、治療開始後1年以内の死亡率は、88年は1.8%だったが、95年に2.4%となり、05年には、新たに結核患者として登録された2万8319人のうち、1340人(4.7%)が1年以内に死亡していた。
 厚生労働省の調査によると、05年の結核患者の総数は6万8508人。新たに結核にかかった人は6年連続で減少しているものの、死亡者は年間約2300人と感染症のなかでは最も多い。
 厚労省によると、新たな結核患者のうち60歳以上が占める割合は増加傾向にあり、05年に初めて60%を超えた。前結核研究所長の森亨・国立感染症研究所ハンセン病研究センター長によると、高齢化で抵抗力の弱い患者が増えるのと並行して、糖尿病などほかの病気を合併する例も多くなり、結核の薬が効きにくい例が目立つという。また、経験の浅い医師が風邪や肺炎だと思って結核の発病を見落としたりするケースもあり、1年以内の死亡率を押し上げている、とみている。
 森さんは「リスクの高い高齢者らに健診を促して、早期に発見していく必要がある。医療機関や医師に、結核への意識を高めてもらうようにすることも重要だ」と話している。

病気腎摘出、移植前提か 手術中にスタッフ待機し搬出 indexへ

 愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院が、病気で摘出された腎臓を別の患者に移植していた問題で、岡山、香川両県で実施された計5件の腎臓摘出手術の際、宇和島徳洲会病院のスタッフがそれぞれの病院内に待機し、臓器を持ち帰っていたことがわかった。「病気腎」の移植手術を執刀した同病院の万波誠・泌尿器科部長(66)は「摘出した腎臓を患者に返せる場合は返すのが大原則」としているが、移植を前提に摘出手術が進められた疑いがある。この場合、摘出側の患者から十分な同意を得たかどうかも焦点になりそうだ。
 万波医師は5日、朝日新聞の取材に、「腎臓を取り出してみて、移植できるとわかってから準備を始める」と説明。4日の記者会見でも「摘出された腎臓は3日もつので、急ぐことはない」などと話していた。
 万波医師の弟、廉介医師(60)の説明によると、岡山県内で今年実施された病気腎3件の摘出手術の際、宇和島徳洲会病院の関係者が各病院で待機。摘出直後に車で宇和島まで持ち帰っていたという。
 香川県丸亀市の香川労災病院でも、万波医師と親交がある西光雄・泌尿器科部長(58)が執刀した2件の腎臓摘出手術で、宇和島徳洲会病院のスタッフが訪れ、臓器を受け取ったという。

市立宇和島病院でも病気腎移植 万波医師の弟明かす indexへ

 愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院で、病気の患者から摘出された腎臓が別の患者に移植されていた問題で、これまで明らかになっている11件とは別に、執刀医の万波誠・泌尿器科部長(66)が、以前勤めていた宇和島市の市立宇和島病院でも同様の腎移植を実施していたことが、万波医師の弟の廉介医師(60)の証言でわかった。5、6年前に腎臓を摘出し、同病院に送ったという。
 04年に宇和島徳洲会病院に移ってから、「病気腎」移植を始めたとしている万波医師の説明と食い違っており、同病院に設置された調査委員会が経緯などを調べる見通し。
 廉介医師によると、患者は70歳ぐらいの男性で、直腸がんの手術を受けた後、片方の尿管の一部が壊死(えし)。患者が治療のための腎臓の摘出と、移植に使うことを了承したという。
 摘出された腎臓の機能に問題はなく、兄の万波医師が市立宇和島病院で移植手術を執刀したという。移植を受けた患者の詳細について、廉介医師は「知らない」としている。
 万波医師は4日の記者会見で、「こうした移植を手がけたのは04年が初めて」と話した。

卵子提供受けた高齢出産 大量出血など事例続出 indexへ

 海外で他人から提供された卵子と夫の精子を使った体外受精によって妊娠した40〜50代の女性で、帰国後の出産時に大量出血や子宮摘出など重大なトラブルが起きていることが分かった。学会や専門誌で報告された。卵子提供は卵子が若く妊娠しやすいとされるが、高齢の母体で子宮などが対応できていないことも考えられ、医師らは注意を呼びかけている。
 日本産科婦人科学会は卵子提供を認めていない。海外で受ける人が増えていると見られるが、実態は分かっていない。
 慶応大の久慈直昭講師(産婦人科)らは、米国での卵子提供で双子を妊娠した41歳の女性で、帝王切開後の異常出血が止まらず、7リットルを超える大量輸血が必要になったと報告した。
 慶応大病院では過去4人の妊婦から米国で卵子提供を受けたと申告があった。3人が出産に至ったが、やはり双子を妊娠した50歳の女性も帝王切開手術の後で子宮からの出血が止まらず、子宮を摘出せざるを得なくなった。出血が著しかった2人に妊娠高血圧症などの合併症はなく、普通の妊娠・出産では考えられない出血だったという。
 一方、日赤医療センター(東京都渋谷区)は、閉経後に米国で卵子提供を受けた57歳の帝王切開で8リットルを超える出血を経験。女性は集中治療室で1週間の治療を受けたのち退院したと報告した。
 米生殖医学会は指針で卵子提供者は21〜34歳が望ましいとしており、日本のあっせん業者もインターネットなどで「提供者は20代」と紹介する例が多い。久慈さんは「子宮と卵子の年齢差が予想外の合併症を起こしているのかも知れない。他人の卵子と精子による受精卵への免疫反応が原因との説もある。卵子提供は、医師に隠さず伝えてほしい」と言う。
 また日赤医療センターの杉本充弘・産科部長は「一般的な出産の出血は0.5リットル。中小規模の病院では8リットルを超す輸血は間に合わない。50代以降の妊娠は技術的には可能でも、生命にかかわる事態となり得ることをよく考えるべきだ」と言っている。

ドナー不足で「使えるものは使う」 徳洲会の万波医師 indexへ

 宇和島徳洲会病院の万波誠・泌尿器科部長らは4日、同病院で記者会見し、病気の患者の腎臓を移植したことについて、「ドナーと移植患者に十分説明をし、同意も得た」と強調した。ただ、ドナーから文書で同意を取ったのは11件中3件だけだったとしている。
 万波医師と貞島博通院長の説明によると、11件の病名の内訳は、腎がんと尿管狭窄(きょうさく)が各3例、動脈瘤(りゅう)と良性腫瘍(しゅよう)が各2例、ネフローゼ症候群が1例。病気で摘出した腎臓の移植は、万波医師が同病院で04年9月から始め、このうち10件が現在も良い状態で機能しているという。11件中5件は病院外で摘出手術が行われ、1件を除いてすべて親族外の移植だった。貞島院長は「病気の腎臓だったことは手術後に聞いていた」と述べ、移植について了承していたことを明らかにした。
 万波医師は「摘出の必要がない小さながんでも、ドナーが摘出を強く望むケースがある。臓器を戻す場合、手術は長時間になり、摘出のみの手術を希望する患者もいる」と説明。「患者や家族には再発の恐れや臓器がうまく機能しない可能性にも言及している。戻せる臓器は戻すというのが大原則だが、ドナー不足で本当に困った人がいる切羽詰まった状況で、使える物は使うという考えだった」と述べた。

提供2病院、倫理委開かず 指針抵触か 病気腎臓移植 indexへ

 愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院が、病気で摘出した患者の腎臓を別の患者に移植していた問題で、摘出された臓器を提供した岡山、香川両県の2病院が、移植の可否を審議する倫理委員会を開いていなかったことがわかった。いずれも臓器提供者(ドナー)と移植患者との間に親族関係はなく、日本移植学会の倫理指針に反する疑いがある。執刀医の一人は「捨てられるはずの臓器が移植に使えるのなら使うべきだ」と主張。移植医療をめぐる同学会との見解の相違が色濃く浮かび上がった。
 倫理委を開いていなかったのは、岡山市の川崎医大付属川崎病院と、香川県丸亀市の香川労災病院。
 川崎病院の男性医師は今年5月、良性の腫瘍(しゅよう)があった50代男性の右腎臓を摘出。応援要請を受けて院外から手術に加わった万波廉介医師(60)が術後、兄の万波誠氏(66)が泌尿器科部長を務める宇和島徳洲会病院に腎臓を送った。
 この医師によると、腫瘍は異常に大きく、切除後の腎臓を体内に戻す可能性は当初から低かった。廉介氏から手術前、「摘出した場合は移植に使わせてほしい」と要請があり、患者から同意書を取ったうえで承諾したという。
 医師は、院内に設置されている倫理委にこの件を諮らなかった。これまで腎移植の経験がなく、日本移植学会に加盟していないため、第三者からの臓器提供については、倫理委に諮るとした学会の倫理指針も知らなかったという。「腎臓はどうみても摘出し、処分する状態だったが、高度な技術を持つ万波(誠)先生なら移植に使えるのかな、と思った。患者の同意があれば大丈夫、と判断した」と振り返る。
 川崎病院の坂手行義院長は、摘出臓器が移植に使われたことを知らなかった。「百%倫理委にかけるべきケース。職員には倫理規定が周知徹底されていると思っていた。残念だ」と話した。
 廉介氏は、川崎病院など岡山県内の3病院で、それぞれ1人の患者から摘出した腎臓を移植用として宇和島に送ったことを認めている。
 3件とも治療して体内に戻すのは時間や手間がかかり、合併症の心配もあったため、より危険性が少ないと考えて、同意を得たうえで摘出したという。「人の役に立つなら使って、と患者から言われた。その思いに誠心誠意応えて、やったことだ」と言い切る。
 一方、香川労災病院の医師(58)は昨年以降、70代と50代の患者2人からがんにかかっていた腎臓を摘出。腫瘍を切除し、いずれも倫理委に諮らないまま、宇和島徳洲会病院に臓器を送った。この医師は万波医師らと移植医療界から「瀬戸内グループ」と呼ばれる手術チームをつくり、多数の生体腎移植を手がけている。
 医師は「病気で摘出した腎臓は、健康な人から摘出された生体腎とはいえない。こうした移植は学会の倫理指針に定められておらず、倫理委の審議対象外だ。患者の同意を得ており、法的にも問題はない」と話す。
 泌尿器科の専門医は「今回の移植に使われた臓器が健康な生体腎とはいえない、というのは言い逃れ。まず、十分な機能があってがんにかかっていないと担保されている臓器なら、患者本人に戻すべきだ。患者の同意を得るのにも十分な時間をかける必要がある。手術中の診断では腫瘍の良性か悪性かの判断はしにくく、移植をすべきではない」と話している。

自治体のエイズ対策、進まず 厚労省、笛吹けど踊らず indexへ

 エイズウイルス(HIV)の感染者・患者が最悪のペースで増え続けているのに、対策が進んでいない。厚生労働省は4月、自治体の役割を明確にする予防指針を新たに打ち出したが、自治体は財政難で予算の確保すらままならない状態だ。自治体は「急に地方任せにされても」と困惑している。
 厚労省によると、HIV感染者・患者は04年に初めて年間1000人を超え、05年は1199人と過去最高を更新。今年10月1日までの累計は1万2020人に上る。
 厚労省は4月、国と自治体の役割があいまいだった予防指針を見直した。国がデザインを示し、専門外来やカウンセラーを備えた治療の中核拠点病院を各都道府県に設置することや、感染者が特に多い16自治体に今年度中に対策計画を整えることを求めた。
 8月には、感染者が多い自治体の取り組みを点検。感染者・患者の6割を占める東京、大阪、千葉、神奈川、愛知5都府県の今年度のエイズ対策関連予算は計約4億200万円。統計を取り始めた95年度の計12億4100万円に比べ、約3分の1に落ち込んだ。
 千葉県は2億3500万円から3500万円に減少。神奈川県(2億5400万円→7600万円)、東京都(6億3200万円→2億3700万円)など、5都府県すべてで減少していた。
 国の予算も109億円から89億円に減ったが同省は「普及啓発や検査・相談事業などの予算を自治体が削減し、国の補助金も減ったため」という。
 予算削減について、愛知県は「おろそかにしてはいけないが、予防や啓発事業は効果が見えにくく予算要望しづらい」と説明。大阪府は「財政が厳しく、国の補助があっても負担は大きい」と話す。
 8月時点で対策計画を作っていたのは16自治体のうち、わずか4。5自治体は着手すらしていない。中核拠点病院も8割の自治体で、設置時期すら決めていなかった。
 厚労省は対策を急がせる方針だが、自治体の担当者からは「地方任せにされても困る。せめてたたき台を示してほしい」などの声が出ている。

高齢者標準世帯、高額医療・介護を合算 上限年56万円 indexへ

 厚生労働省は、公的な医療保険と介護保険の自己負担の合計が一定額を超える世帯に対し、超過分を払い戻す「高額医療・高額介護合算制度」の概要を決めた。08年4月から設ける。現在、入院やリハビリなどで高額な自己負担を支払っている場合、医療、介護それぞれで上限額を設けて払い戻す仕組みがあるが、両方で自己負担が年間で100万円近くになる世帯もある。現行の払戻制度に加えて合算制度を導入することで、年間の支払総額を軽減させ、標準的な収入(住民税課税対象者で、年収520万円未満)の高齢者世帯の場合、最高でも56万円で済むようにする。
 現在は、医療、介護保険にはそれぞれ「高額療養費制度」「高額介護サービス費制度」などという払い戻しの仕組みがある。70歳以上の標準的な収入の世帯の場合、入院医療費の上限は月4万4400円(年53万2800円)、介護サービスは月3万7200円(年44万6400円)で、これを超える自己負担額は全額払い戻しされる。月単位で精算されるが、同一世帯で医療保険と介護保険の両方利用している場合、払い戻しを受けた後でも最高で年間98万円支払わなければならない。
 新しい合算制度は、今年6月に成立した医療改革関連法に盛り込まれ、医療改革による自己負担の増加を少しでも緩和するねらいがある。医療と介護で月ごとに払い戻しを受け、それでも両方を合わせた年間の世帯負担額が一定限度を超えた場合、加入する医療保険に申請すれば、超過分が払い戻される。払い戻しの費用は、医療保険と介護保険の両方で負担する。
 限度額は、年齢や所得、加入する医療保険に応じて細かく設定。75歳以上で年収520万円未満の標準的な収入の夫婦世帯の場合、限度額は年56万円。520万円以上の高所得者は67万円、住民税非課税の低所得者は31万円、などとなっている。
 03年度に払い戻されたのは、共済組合を除く医療保険で839万件、計8004億円で、介護保険では504万件、計337億円だった。

メタボリック症候群、血圧正常なら動脈硬化のリスク同じ indexへ

 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)であっても、生活習慣で血圧が正常に保たれていれば動脈硬化のリスクは上がらない。そんな傾向が東京大病院循環器内科の石坂信和・特任講師らの調査で浮かんだ。同シンドロームは生活習慣病の危険を高め、心臓病や脳卒中を招く動脈硬化につながるとして注目されるが、同シンドロームの有無だけにとらわれず、生活の中で個々の危険因子に注意する必要性が示される結果だ。
 米国心臓協会の専門誌に報告した。都内の病院で94〜03年に人間ドックを受診した約8000人の血圧や血中脂質の値などを分析したほか、首の動脈に軽度の動脈硬化が起きていないかどうか、超音波装置で調べた。
 このうち、血圧がやや高めだが正常範囲である「上140未満、下90未満」の約6000人を対象に、同シンドロームの有無と動脈硬化のリスクの関係を調べてみた。
 女性の場合、同シンドロームがある人の動脈硬化のリスクは、ない人に比べて2.7倍高かった。だが、女性のうち、同じ血圧でも降圧剤に頼っていない人の動脈硬化のリスクは、同シンドロームがあってもなくても、変わらなかった。
 血圧が同じでも、薬を飲んでいる人のリスクが高くなっているらしい。石坂さんによると理由ははっきりしないが、薬に頼らないと正常な血圧を保てないこと自体がリスクを高めている可能性が考えられるという。男性は、いずれの場合もリスクに違いはなかった。

病気で摘出の腎臓移植 宇和島徳洲会、過去に11件 indexへ

 愛媛県宇和島市で起きた臓器売買事件の舞台になった宇和島徳洲会病院は2日、過去に実施した生体腎移植の中で、病気によって摘出した患者の腎臓を別の患者に移植したケースが計11件あった、とする調査結果を発表した。こうした移植は安全性に疑問があるうえ、同病院が移植の可否を検討する倫理委員会も置いていなかったことから、日本移植学会の倫理指針に明白に違反する。専門家からは「医療行為として問題が多い」と疑問の声が出ている。
 病院側は当面、こうした移植を中止し、腎臓を摘出された患者が移植に同意していたかどうかを含め、外部の専門家を加えた専門委員会で詳しい調査をする方針。
 同病院によると、04年4月から今年9月までに実施した生体腎移植は、今回の事件を除くと81件。このうち11件について、治療の必要性から摘出した腎臓を移植に使っていた。他人からの臓器提供も含まれているとみられる。すべての腎移植を執刀した万波誠・泌尿器科部長(66)は「これまでの移植は親族間だった」と話し、この説明とも矛盾するという。
 泌尿器科の専門医によると、一般に腎臓の腫瘍(しゅよう)や腎臓周辺の血管が狭くなるなどの病気の場合は腎臓を摘出し、病変部を治療して患者に腎臓を戻すことはあるが、機能する腎臓を摘出して他人に移植する行為は通常、考えられないという。
 81件のうち4件は患者の体内で臓器の位置を変える移植で、66件は当時の記録などから親族間の移植と推定される。ただ、この中の5件については、外国籍などの事情で親族関係が確認できなかったという。
 今回の事件では、腎臓を提供してもらう見返りに現金などを渡した男女2人が臓器移植法違反容疑で逮捕、起訴され、臓器提供者(ドナー)の女性が略式起訴された。同病院は関係者の本人確認が十分でなく、倫理委員会も開いていなかった。
 11件のうち3件の腎臓の摘出手術を執刀した万波医師の弟の廉介医師(60)は「摘出理由は腎臓がんや良性腫瘍、動脈瘤(りゅう)の疑いだった。術後の検査でいずれも良性と判断されたため、移植した」と説明。「摘出した腎臓を他人への移植に使うことについて、摘出患者の同意を得た」と話した。
 病院側は「担当者がいないので、詳細は答えられない」としている。

はり・きゅうのツボの位置は361カ所、WHOが基準 indexへ

 国ごとに異なっていたはりやきゅうで使われる361カ所のツボの位置を、世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局が国際的に統一した。2日まで茨城県つくば市で開かれていた国際会議で決定した。
 ツボ治療は約2000年前から行われ、各国で引き継がれるうち、位置や名称にずれが出てきた。WHOは89年に361カ所の名称を統一。03年から、日中韓の3カ国で統一案づくりに取り組んできた。3カ国では92カ所が食い違っていたことがわかったという。
 国際会議には日中韓をはじめ9カ国2組織が参加。3カ国がまとめた案では、6カ所のツボで合意できておらず、1日の会議で、投票で決めた。このうち、動悸(どうき)や精神的不安、高熱などに効くとされる「労宮」は、日本や中国で古来引き継がれていた、人さし指と中指の間の下の部分に統一された。統一基準は、日本国内の教科書と約40カ所が異なっているという。
 日本側の代表として参加した形井秀一・筑波技術大教授は「標準的な位置が決まったことで、効果や臨床的研究について、国際的に議論できるようになる。教育の標準にもできる。グローバル化のスタート地点に立てた」と話している。

腎移植実施、少なくとも10施設が倫理委設けず indexへ

 愛媛県宇和島市の臓器売買事件を受けて設置された日本移植学会の特別委員会(委員長、大島伸一・国立長寿医療センター総長)が1日、名古屋市内であり、腎移植手術をしている医療施設のうち、少なくとも10施設が倫理委員会を設置していないことがわかった。
 委員会は、腎移植手術を実施する238施設にアンケートを実施。199施設から回答があり、そのうち10施設が、手術に問題がないかなどを検討する倫理委員会を設置していなかった。8施設は「施設長が判断」と回答。残る2施設は「別の施設の倫理委員会に委ねている」だった。

手術件数などHP公開に 病院情報で厚労省 indexへ

 病院を選ぶ際に参考となる情報をわかりやすく提供するため、厚生労働省は来年度から、都道府県を通じて、全国の病院や診療所に診療内容などの医療情報を公表するよう義務づけることを決めた。公表するのは診療科目のほか、疾患ごとの手術件数や差額ベッド代などで、都道府県のホームページなどに掲載する。ただし、死亡率など治療成績の数値は項目に含めることを見送った。

医師免許なくピアス穴開け、容疑の販売業者ら逮捕 indexへ

 医師免許がないのに客の耳に穴を開け、ピアスを装着したなどとして、警視庁は31日、アクセサリー販売業「アンジェリック・ママレイド」(東京都渋谷区宇田川町)を経営する鈴木浩行容疑者(45)=千葉県浦安市日の出3丁目=ら2人を医師法違反(医師以外の医業禁止)などの疑いで逮捕した。
 鈴木容疑者らは客に入れ墨をしていた疑いもあり、同庁はこの件についても同法違反の疑いで捜査する。
 生活環境課の調べでは、鈴木容疑者らは医師免許がないのに、昨年11月から今年5月にかけ、男性(19)の耳や舌にピアスを装着する穴を開けた疑い。男性は装着した際、耳から血が止まらなくなり、被害が表面化した。
 入れ墨について、厚生労働省は01年、医師以外はできないと通知を出したが、その後も、違法な店舗が横行していた。

1歳児死亡は病院のミス 両親が小田原市に賠償請求提訴 indexへ

 神奈川県小田原市の市立病院に入院中の男児(当時1)が2月、吐いたミルクを詰まらせ死亡したのは病院が適切な処置をしなかったためだとして、両親が30日、病院を管理する小田原市に約5800万円の損害賠償を求める訴訟を横浜地裁に起こした。両親は「体を固定されミルクをのどに詰まらせる可能性が高かったのに、遠隔監視装置をはずすなど、十分な観察を怠った」と訴えている。市は「訴状を見ていないのでコメントできない」としている。

49、50例目の脳死判定、移植が終了 indexへ

 福島県いわき市と川崎市の病院で27日から28日にかけて、2人の男性が臓器移植法に基づく49例目と50例目の脳死と判定され、摘出された心臓などの臓器の移植手術が30日までにすべて終了した。東北から九州までの8病院で、30代〜60代の男女9人に移植された。同法に基づく臓器提供としては、48例目と49例目だった。

介護予防、出足は低調 指定市0.2% indexへ

 将来、介護が必要になりそうなお年寄りに運動などをしてもらい、要介護状態になるのを防ごうと導入された介護予防事業で、都市部の「介護予備軍」の把握状況が国の目標を大きく下回っていることが朝日新聞の全国調査でわかった。厚生労働省は65歳以上のお年寄りの約5%を目安としているが、15の政令指定都市では、平均0.2%だった。事業がスタートして半年余り。参加者不足で予防教室が開けないなど、出足は順調とはいえない状況だ。
 厚労省は、今年4月から3年かけて、「特定高齢者」と呼ばれる介護が必要になる可能性が大きいお年寄りの把握を進めたい考えで、今年度は、各自治体とも2〜3%を目標にしている。同省が一部の都道府県から集計した現時点の把握状況は平均0.9%(4〜8月分)だが、自治体側からは「人口の少ない自治体ではお年寄りの状態を把握しやすいが、都市部では難しい」との声が出ている。
 このため、朝日新聞は7月から9月にかけてまとまった政令指定都市の状況を調べたところ、65歳以上人口に対する把握された「予備軍」の割合はいずれも国の目標を大きく下回っており、0.3%を超えているのが千葉、名古屋、京都の3市だけ。仙台、広島、北九州、福岡では0.1%にも満たない状況で、年間でも1%の達成は困難な状況だ。
 また把握できても、「私はまだ元気」などの理由で、介護予防教室への参加を断る人も多く、参加率が5割を超えているのは札幌、仙台、名古屋の3市ぐらい。平均は約3割で、「教室の準備は出来ているが、希望者がいないので始まっていない」(広島)という例もある。
 「介護予備軍」の把握が進まない大きな原因として自治体側が挙げるのが、厚労省の定めた基準の厳しさだ。25項目の基本チェックリストのうち、例えば運動機能なら「15分くらい続けて歩いていない」「転倒に対する不安は大きい」などのすべてに該当しなければ候補者にならず、「すべての基準を満たすようなケースは、予備軍というよりも介護が必要な人だ」といった声もある。
 18日に開かれた自治体側と厚労省の意見交換会では、「現場が必要と思う人にサービスが提供できるようにもっと柔軟な仕組みにしてほしい」「基準に縛られて介護予防が出来ないのは本末転倒」などと、対象者を選ぶ基準の見直しなどを求める要望が相次いだ。
 これに対し、厚労省は「集まりにくいから基準を緩めるというのでは、保険料を払っている人たちの理解も得られない」(老人保健課)と見直しには慎重。「今までのようにサービス希望者が来るのを待っているのではなく、必要としている人を見つけてサービスを提供する新しい取り組みに変わったと理解してほしい」として、自治体側の意識改革の必要性を強調する。

インフルエンザ「流行型」の予測強化 遺伝子解析詳細に indexへ

 インフルエンザの流行予測を立てるため、国立感染症研究所が取り組むウイルスの遺伝子解析を、経済産業省系の独立行政法人製品評価技術基盤機構も担うことになった。両者の協力で解析期間が短くなるほか、分析する遺伝子の範囲を広げることで、ウイルスをもとにつくるワクチンの効果向上や、薬が効かない薬剤耐性ウイルスの監視にも役立つという。
 国内で毎年約1000万人がかかるインフルエンザは「A香港型」「Aソ連型」など3タイプあり、突然変異で遺伝子が少しずつ変わる。全国で採取されたウイルスの遺伝子解析などから、厚生労働省が翌シーズンに流行しそうなウイルス株を予測し、作るワクチンを決める。
 従来は感染研が、A型ウイルスの主な二つの遺伝子のうち一つについて年間500株ほど解析していた。今年から調べる遺伝子を二つにし、株数も増やして、より詳しい情報を得る。2機関の協力で、数カ月かかっていた解析が1カ月で済むと見込む。より詳しい情報が迅速に得られることで、流行するインフルエンザにより適応したワクチンの準備につながるなど、予防効果の向上が期待できるという。
 ワクチンは1本の接種で3タイプのウイルスに対応している。今年は、昨シーズンの流行の7割を占めたA香港型と、あまり見られなかったB型で、ウイルスに変化がみられたため、昨年とは別のウイルスが使われている。Aソ連型は昨年と同じウイルスが使われている。

タミフルと異常言動、関連性「なし」 厚労省研究班 indexへ

 抗インフルエンザウイルス薬オセルタミビル(商品名タミフル)の服用者が異常言動で死亡した例などが報告されているが、「小児のタミフル服用と異常言動の関連性は認められなかった」という研究結果が厚生労働省の研究班(主任研究者、横田俊平・横浜市立大教授)の調査で分かった。
 異常言動は、インフルエンザの合併症として多く発生する脳症の前にも出るとされるが、タミフルの服用が影響しているのか注目されていた。
 調査は昨年度、全国12都県の小児科医を通して行い、2846件(99.5%が0歳から15歳まで)の回答を得た。発熱後7日間の服薬状況や肺炎や中耳炎の併発、けいれんや意識障害、幻覚やうわごとなどの異常言動があったか答えてもらった。
 調査対象の患者の9割がタミフルを服用していた。服用した患者の異常言動発生率は11.9%。一方、服用しなかった患者の異常言動の発生率は10.6%だった。統計学的に意味がある差ではなかったという。
 医師への調査とは別に、患者の親らにも調査票を配って調べたところ、2545件の回答があった。こちらもタミフル服用による異常言動の発生率の上昇はみられなかった。
 厚労省によると、01年の販売開始から今年6月末までに、タミフル服用後に異常言動などで死亡した16歳以下の患者は15人。医薬品による副作用被害に救済金を支給する国の制度に申請した例もあるが、これまでのところ、副作用と認められたケースはない。
 タミフルは、鳥インフルエンザが変異して起きるとされる新型インフルエンザの治療薬としても期待され、国や自治体が備蓄を進めている。
 横田教授は「明確な結論を得るにはさらなる検討が必要で今年度も詳細な研究をする」と話す。

看護師、上京ラッシュ 地方は流出に危機感 indexへ

 地方の看護学生さん、都会の病院へいらっしゃい――東京の大病院が、地方から看護師の卵を連れて来ようと勧誘に精を出している。診療報酬の改定を機に増員を図る病院が多いためで、東大病院(東京都)は今秋、初めて地方で試験を行った。看護学生にも上京希望が強く、現代版「集団就職」の様相だ。人材を奪われる地方の病院は、最低限の態勢確保も危うくなると危機感を募らせる。
 秋田県の北部、大館市にある秋田看護福祉大には今年、「学生さんをぜひうちの病院に」と東京やその周辺の病院の職員が頻繁に訪れる。昨年度の求人件数は262件だったが、今年は10月上旬の時点ですでに338件にのぼる。
 10年前に短大として開校し、昨年4年制に改編したばかり。「うちのような新参者はこちらからお願いしなければいけないのに」と、就職担当の後藤忠志助教授は驚く。
 東京の病院から続々と内定通知が届く。都内の大学病院に内定した学生(21)は「ずっと東北に住んでいたので、一度は東京で働きたい」と話す。別の大学病院に決まった学生(21)も「都会の大規模病院で最前線の救急医療を経験したい」。この病院には同級生4人も就職する予定だ。
 東京の病院が採用活動に熱を入れる背景には、4月からの診療報酬制度の変更がある。
 新たな基準に従って看護師をこれまでより手厚く配置すると、入院患者に対する診療報酬が従来より多く支払われるようになった。「人件費が増えるので利益は出ないが、高度医療と患者サービスにつながる」と東大病院の櫛山博副院長。
 東大病院は来春、例年の約2.5倍の300人を採用する予定だ。9月30日には仙台や福岡など5カ所で地方試験を実施。教授らも、学会で訪れた地方の看護大などを回ってPRにいそしむ。
 東京の大病院の攻勢を受ける地方の病院は厳しい状況に置かれている。
 「都会の大病院に学生が流れてとても太刀打ちできない」。宮城県内で4カ所の病院を運営する宮城厚生協会の佐藤道子看護部長は頭を抱える。来春50人程度を採用したいが見通しが立っていない。12の訪問看護ステーションも運営しているがこちらの応募も減っており、病院部門から看護師を派遣して態勢を維持しているという。
 東北医療の中心、東北大病院(仙台市)でさえ苦戦を強いられている。例年の倍近い190人程度の採用が目標だが、めどが立たない。「国立大の法人化で大学病院も競争の時代。他大学の行動を制限できないし」(病院総務課)と渋い表情だ。

保険医登録取り消しへ 東京女子医大・心臓手術ミス医師 indexへ

 東京女子医科大病院(東京都新宿区)で01年3月に心臓手術ミスがあり、群馬県高崎市の小学6年、平柳明香さん(当時12)が死亡した事件で、厚生労働省は、医療記録を改ざんした元同病院医師の保険医登録を取り消す方針を固めた。カルテなどの改ざんが悪質で、健康保険法の規則に違反すると判断した模様だ。11月中に東京社会保険事務局の地方社会保険医療協議会で正式に決める。
 また、厚労省は管理者である同病院に対しても、監督不行き届きという理由で、戒告の方向で処分を検討している。
 保険医登録の取り消しは、虚偽の診療報酬請求などがあった場合が大半で、医療記録の改ざんを理由に処分されるのは異例だ。登録の取り消し後は原則5年間、健康保険の請求ができなくなる。
 元同病院医師は手術チームの責任者で、01年3月、同僚の医療ミスを隠すためにカルテ類を改ざんしたとして証拠隠滅罪に問われ、04年3月、東京地裁で懲役1年執行猶予3年の有罪判決が言い渡されている。
 明香さんの父親の利明さん(56)は「保険医の登録が取り消されれば、カルテ改ざんを抑止する重要なきっかけになると思う。病院全体で改ざんを防ぐ何らかの手だてにつながればうれしい」と話した。

法的脳死判定50例に 法施行10年目 indexへ

 川崎市の関東労災病院で28日、脳幹出血で入院していた50代の男性について、臓器移植法に基づく50例目の脳死判定が実施された。同法が脳死と臓器移植をめぐる大議論の末に、97年10月16日に施行されて10年目。節目を迎えた。臓器提供は医学的理由で見送られた00年の1例を除く49例で、脳死移植を受けた患者は移植見込みを含め187人になる。
 日本臓器移植ネットワークによると、男性は臓器提供の意思表示カードを持っており、心臓は国立循環器病センター(大阪府吹田市)で50代男性、肝臓は信州大で50代女性、膵臓(すいぞう)と片方の腎臓は同時に大阪大で40代女性、もう片方の腎臓は川崎市の虎の門病院分院で60代男性にそれぞれ移植される予定。肺と小腸は、医学的理由などから移植が見送られた。
 27日深夜に福島県いわき市の市立総合磐城共立病院で行われた49例目の脳死判定と合わせ、28日から29日にかけて全国で9人への移植手術が進められることになった。東北大での小腸移植は医学的理由で断念された。
 99年2月の高知での1例目から携わってきた菊地耕三ネットワーク理事は50例目の記者会見で「あっという間に時が過ぎた。(手続きミスや判定が難しい例の議論など)いろいろあったが、公平なあっせんができてきたと思う。初心に戻って、本人とご家族の尊い意思がかない、社会にも認知されるよう、努めていきたい」と述べた。
 臓器移植法では、脳死移植につながる厳格な脳死判定の対象を、意思表示カードなど書面で脳死での臓器提供意思を示している人に限っており、年間の判定数は昨年と今年の9例が最多だ。菊地さんは「意思表示カードの所持率からすると、年間の臓器提供は10件前後と推計される。カードの一層の普及にも力を入れたい」と言っている。

49例目の脳死判定、臓器提供へ 福島 indexへ

 福島県のいわき市立総合磐城共立病院に頭を強く打って運ばれた30代男性が27日夜、臓器移植法に基づいて脳死と判定された。臓器提供の意思が示されており、28日午後から心臓などが摘出され、移植される予定。97年の同法施行後、49例目の脳死判定で、臓器提供は48例目。
 日本臓器移植ネットワークによると、心臓が大阪大で50代男性に、肺が福岡大で30代男性に、肝臓が名古屋大で40代男性に、膵臓(すいぞう)と腎臓の一つは九州大で40代女性に、もう一つは福島県立医大で50代男性に、小腸が東北大で20代男性にそれぞれ移植される予定。福岡大での脳死移植は初めて。

「孫」代理出産、結論は出さず 産婦人科学会 indexへ

 日本産科婦人科学会(武谷雄二理事長)は27日、常務理事会を開き、諏訪マタニティークリニック(長野県下諏訪町)の根津八紘(やひろ)院長が公表した50代女性による「孫」の代理出産への対応などを協議した。
 倫理委員長の吉村泰典・慶応大教授によると、代理出産の事実は、地方部会を通じて電話で根津院長に確認した。さらに「事前にどのような健康チェックをしたのか、出産後はどうか、など詳細な内容をフォローする必要がある。50代女性の妊娠出産に関するデータは世界的にも貴重だ」として、文書による報告を求めることにしたという。
 代理出産を禁じた同学会会告(指針)への違反に対する処分は「(法整備を検討する閣僚発言など)国の動きを見ながら、引き続き検討を続ける」として、結論は出さなかった。

脳梗塞治療薬で48人死亡 5人は適用外使用 indexへ

 昨年10月に脳梗塞(こうそく)の特効薬として承認された薬剤「tPA」について、この1年間に48人が脳出血など副作用が疑われる症状を起こして死亡し、うち5人は使用基準で使ってはいけない状態だったことが、製薬会社2社の集計で分かった。
 tPAは血管に詰まった血の塊を溶かす血栓溶解剤。救命救急のぎりぎりの状態の患者に使われ、発症3時間以内の脳梗塞に有効性が認められている。ただ、出血しやすくなる副作用があり、使用基準は厳しく定められている。
 昨年10月の承認後、今年10月10日までに3200人に使用されたと見られているが、488人で脳出血など副作用とみられる有害事象の報告があった。亡くなった48人では、脳出血が29人で最も多く、次いで脳浮腫が5人だった。いずれも厚生労働省に報告している。
 血圧が高く使用基準に合わないなど、本来は使ってはいけなかった事例での有害事象が41件あり、そのうちでは5人が亡くなっていたという。
 同省安全対策課は「慎重に使ってもらうため、従来から適正な使用を推進している。異常な事態とは見ていないが、引き続き努力する」としている。

肺がんCT検診で早期治療、10年後の生存率9割 indexへ

 CT(コンピューター断層撮影)による肺がん検診を受け、早期の段階で見つかり、治療した人の10年後の生存率が約9割にのぼることが、日本を含む国際チームによる大規模調査で分かり、26日付の米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに掲載された。CT検診の有効性をめぐる論議が活発化しそうだ。
 93年から05年の間にCTで検診を受けた日米欧などの3万1000人あまりを調べた。日本人では、JA長野厚生連安曇総合病院(長野県池田町)で人間ドックを受診した約6000人が対象になった。
 その結果、484人に肺がんが見つかり、うち85%は早期段階の「1期」と判断された。このうち、診断から1カ月以内に手術を受けた患者の10年生存率は92%だったという。一般的に、1期で見つかった肺がん患者は、5年生存率でも70%ほどとされている。CTでがんが見つかった患者全体の生存率は80%だった。
 CT検診は胸部X線を使う従来の検診よりも、小さいがんを発見できる。一方、結果的に、ただちに治療する必要のないがんが見つかってしまう例なども指摘されており、CT検診が必ずしも有効かどうか、まだ結論は出ていない。
 日本CT検診学会理事長の金子昌弘・国立がんセンター中央病院医長は「CTの有効性を考えるうえで、非常に心強い治療成績だ」としている。

肝炎の精密検査、家庭訪問で促進 厚労省指針案 indexへ

 300万人以上も感染者がいるとされるB型、C型肝炎対策で、厚生労働省は、都道府県ごとに取り組む診療体制の指針案をつくった。B、C型肝炎は検査で感染の可能性がわかっても、症状が出ていないために精密検査をしない人が少なくない。指針案は、医師や保健師が家庭訪問をして、感染の疑いがある人に精密検査の受診を促すことなどを求めている。
 肝炎は、放置しておくと慢性化して肝硬変や肝がんに進行する恐れがあり、早期の発見と治療が重要だ。肝炎ウイルスの検査は老人保健法に基づく健康診断や全国の保健所などで受けられる。だが、04年度の厚労省研究班の調査では、C型肝炎の住民検査で感染の可能性が高いとされた約6500人のうち、18%が精密検査などを受けていなかった。
 指針案は、検診で精密検査が必要とされた人などについて、(1)医師や保健師が家庭訪問や面接をして精密検査を受けるよう指導する(2)プライバシーに配慮し検査結果を通知し、肝炎の怖さなどを説明するパンフレットで受診を勧める(3)後日、受診したかどうかを確認する、などとしている。

リウマチの原因はDNAの「ごみ」? 阪大教授ら発表 indexへ

 関節リウマチは、自死した細胞などの不要なDNAが引き金になって起こることが、大阪大生命機能研究科の長田重一教授(遺伝学)らによるマウスの実験で確認された。これまで原因不明とされてきた関節リウマチの新しい治療薬の開発につながる可能性がある。26日発行の英科学誌ネイチャーに発表した。
 関節リウマチは手足の指やひざなどの関節がこわばり、痛み、変形する炎症反応で、国内の患者数は約60万人といわれている。
 不要になった体の細胞が自発的に死んだときや、赤血球ができるとき、DNAの「ごみ」が出る。これらは最終的に、白血球に含まれる酵素で分解される。
 今回、生まれた直後からこの酵素を働かなくし、「ごみ処理」ができないマウスをつくることに成功した。その結果、マウスが生殖可能になる2カ月目ごろから指先に異常が表れ、8カ月目ごろには数十匹のマウスのほとんどが、手や足首、ひじ、ひざに関節炎を起こした。患部を調べると、人の関節リウマチにそっくりだった。
 人の関節リウマチでは、炎症にかかわる情報伝達物質がたくさん分泌される。長田教授は、処理できないDNAをためこんだ白血球がこれらの物質を作り、リウマチを起こすとみている。

肺移植の患者死亡 京大病院が医療過誤 indexへ

 京都大医学部付属病院で3月に肺の移植手術を受けた直後から意識不明になっていた30代の女性が24日深夜、死亡した。同病院から医療過誤の届け出を受けた京都府警は、業務上過失致死の疑いで捜査を始めた。今後、司法解剖やカルテ調査などをする。
 女性は肺リンパ脈管筋腫症という難病。同病院の調査委員会が10日にまとめた報告書によると、手術中、人工心肺を使った血液循環がうまくいかず、血液中の酸素が不足した。さらに血圧低下が重なり、脳へ十分な酸素供給ができなくなった可能性がある。
 また、手術を主導した呼吸器外科は、血液循環など身体管理を担当する心臓血管外科や麻酔科と手術前の合同打ち合わせをしていなかった。責任が不明確なまま手術を始めたため、複数の異常値を見逃していたことも判明。内山卓病院長は今月12日の記者会見で、移植チームの連携不足など「重大な過誤」があったことを認めて謝罪した。
 同病院はこの手術後、肺移植を自粛している。移植手術の体制見直しを進めているが、今年度内の再開は難しそうだ。
 内山病院長は「悲しい結果に終わり大変残念だ。再発防止策を徹底し、安心して高度医療を受けられる体制を構築していく」とのコメントを発表した。

治る早期乳がん、発見増加 X線検診の普及で indexへ

 「超早期乳がん」と呼ばれる「非浸潤性乳管がん(DCIS)」と診断されて手術を受ける人が増え、乳がんの総手術件数に占める割合がこの4年間で5割増えたことが、主な医療施設へのアンケートで明らかになった。乳房X線撮影(マンモグラフィー)検診の広がりで早期発見が可能になったことなどが背景にある。日本の乳がん死亡率は上がっているが、DCISの段階で治療すればほぼ完治する。診断率がさらに上がれば死亡率減少につながるとして、専門医は検診の重要性を訴えている。
 アンケートは、聖路加国際病院(東京都中央区)など、先進的に乳がん治療に取り組む全国の約20施設でつくる「乳癌(にゅうがん)カンファレンス」が02年から実施している。これらの施設で行われた乳がん手術は02年が2429件、05年は3656件。うちDCISが占める割合は8.7%(212件)から13%(476件)に増えた。この調査と一緒に、NPO法人が国内50施設を対象に実施したアンケートでも05年に10%を超えていた。
 乳がんには「非浸潤性」と「浸潤性」がある。DCISは進行度でいうと「ステージ0」で治療すればほぼ100%治る。ただ、がんが乳管の中にとどまっていてしこりがないため触診ではわからない。放っておくと周囲の組織にがんが広がり浸潤性に進行する場合もある。
 DCISの手術が増えたのは、検診制度が04年度に見直されマンモグラフィーが普及したほか、針でがん組織を吸引して調べる「マンモトーム生検」が同年度に保険適用され、見つけやすくなったためとみられている。
 乳がん患者の死亡率は欧米で下がりつつあるが、日本では上昇している。検診の受診率が低く、DCISの発見率が低いためという指摘もある。調査を担当した同院の中村清吾・乳腺外科部長は「米国でのDCISの手術割合は20%近い。マンモグラフィー検診の普及とともに、医療施設の正確な診断と治療が必要だ」と話している。

産科医が超勤手当1億円と設備改善を要求 奈良県立病院 indexへ

 奈良県立奈良病院(奈良市)の産婦人科医5人が04、05年の超過勤務手当の未払い分として計約1億円の支払いと、医療設備の改善を求める申入書を県に提出したことがわかった。医師らは「報酬に見合わない過酷な勤務を強いられている」と訴えており、要求が拒否された場合は、提訴も検討する方針。
 県によると、同病院の年間分娩(ぶんべん)数は05年度で572件。産婦人科関連の救急患者は年間約1300人にのぼる。産婦人科医が当直をした場合、1回2万円の当直料が支払われるが、当直の時間帯に手術や分娩を担当することも多いという。
 申入書によると、当直について労働基準法は「ほとんど労働する必要がない状態」と規定しており、実態とかけ離れていると指摘。当直料ではなく、超過勤務手当として支給されるべきで、04、05年の当直日数(131〜158日)から算出すると、計約1億700万円の不足分があるとした。現在9床の新生児集中治療室(NICU)の増床や、超音波検査のための機材の充実なども要求している。
 医師の一人は「1カ月の超過勤務は100時間超で、医師の体力は限界に近い。更新期限を過ぎた医療機器も少なくなく、これでは患者の命を救えない」と訴える。
 県は、産科医を1人増員するなどの改善策に乗り出すとともに、医療設備の改善を検討しているが、超過勤務手当の支払いは拒否した。担当者は「財政難のため、すべての要求に一度に応えるのは難しい」と説明する。

小児科医の新人、2県で0人 26都府県で減少 indexへ

 大学卒業後、臨床研修期間(2年間)を終えて今春から小児科に進んだ医師の数が都道府県によって大きな偏りがあることが日本小児科学会の調査でわかった。
 今年7月1日時点で、大学病院と大学以外の研修指定病院など計929施設から回答を得た。同学会は「ほとんど把握した」としている。
 調査の結果、今年4月に小児科に進んだ医師は502人。04年度から必修化された臨床研修制度の導入前の2年(02、03年度)の平均より15.4%減った。研修で労働条件の厳しい現場に接して小児科を避けたのが主な理由と見られる。
 都道府県別では、26都府県で小児科選択者が減り、うち15府県では制度前の半分以下。特に秋田、富山の2県で0人、岩手、山形、新潟、山梨、高知の5県で1人だけだった。一方、19道府県で増加した。埼玉、神奈川、大阪の3府県では10人以上も増えた。
 小児科は医師不足が深刻なだけに、同学会は「この状態が続けば、小児医療体制が崩壊する県が続出する可能性がある」としている。
 地方での苦戦が目立つが、東京都で139.5人から89人、京都府で39人から19人と減少数が多かった。同学会は「制度の導入で、指導態勢がしっかりした東京近郊のこども病院などに人気が集まったのでは。東京などで大幅に減ったのは、大学病院に進んだ人が減ったため」とみている。

ジェネリック医薬品、普及進まず 厚労省が聞き取りへ indexへ

 国内で後発医薬品(ジェネリック医薬品)の普及が進まない原因を探ろうと、厚生労働省は、大手の調剤薬局経営会社を対象にした聞き取り調査に月内にも乗り出す。同省は、安価な後発医薬品を普及させることで医療費抑制をめざしており、処方現場の実態を把握して今後の利用促進策につなげる考えだ。
 後発品は、新薬の特許が切れた後、他の製薬会社が同じ成分でつくる医薬品。開発費がかからないため価格が安いが、日本の市場に占める割合は04年で約17%。米国の約56%など欧米に比べて極端に低い。
 今年4月からは、医師が出す薬の処方箋(せん)に後発品への変更可という欄が新たに設けられた。新薬名が記入してあっても、この欄に医師のチェックとサインがあれば薬剤師は後発品を処方できる。
 だが日本薬剤師会が今年4、5月に全国の薬局で処方された処方箋のうち約24万枚を調べたところ、医師のサインは20%ほどの処方箋にあったのに、うち1割ほどしか後発品は処方されておらず、サイン欄を活用して処方されたケースは約2%にとどまった。
 厚労省は、この2%を「低い」と問題視。調剤薬局を経営している会社から聞き取り調査をし、後発品処方の現状、処方が少ない理由、患者への後発品に関する情報提供の内容などを尋ね、処方を妨げている要因や後発品に関する処方現場の意識を探る。調剤薬局をチェーン展開している大手の経営会社10社前後が対象になるとみられる。
 厚労省は「後発品は先発品と同じ効果や安全性が確保されている」としている。一方、日本薬剤師会の薬局アンケートでは、後発品を採用する際に重視するのは「安定供給」「適応症」「入手、納品に要する時間」の順だった。
 後発品をめぐっては、厚労省が3月、日本製薬団体連合会に通知を出し、後発医薬品を安定供給できる態勢を整えることなどを求めた。公正取引委員会の今年1〜9月の調査では、先発品メーカーが医療機関に「後発品の品質が劣る」「製造上の欠陥がある」などと不公正な取引につながりかねない説明をしていた例があることなども明らかになっている。

心臓病の赤ちゃん、遠隔診断 専門医がネットで助言へ indexへ

 赤ちゃんの先天性の心臓病治療で、専門の小児循環器科医のいる病院が、インターネット通信を使って地域の病院を支援する遠隔診断システムが、国立循環器病センター(大阪府吹田市)や国立成育医療センター(東京都世田谷区)など全国13カ所で計画されている。新生児の心疾患の専門医がいる病院は少なく、システムの普及で、治療の効果が上がることが期待される。
 軽症から重症まで合わせると、先天性心疾患の新生児は100人に1人に上るといわれる。重い心臓病が見つかった場合、ふつうは専門医がいる病院に搬送している。しかし、搬送中に容体が悪化することもあり、出産病院などでの初期治療が大切だ。
 このシステムは、出産病院などにある超音波診断装置で検査中の画像をインターネットを通して専門病院のパソコンに転送し、小児循環器科医がリアルタイムで動画を見ながら主治医に電話で指示をする。一般的な動画通信ソフトを使えるため、初期費用はパソコンと周辺機器合わせて20万〜30万円程度に抑えられるという。
 国立循環器病センターの越後茂之・小児科部長らは、医療機器メーカーと共同で通信専用の超音波診断装置も開発した。同センターは、専用装置を使って大阪府高槻市の愛仁会高槻病院との間で年内にも試験実施を始める予定。長崎医療センター(長崎県大村市)は、対馬など2、3カ所の離島の病院との連携を考えている。
 このほか、北海道立小児総合保健センター、東京女子医大病院、長野県立こども病院、福岡市立こども病院なども計画。専門医のいる計13の病院で検討されている。

脳に病気の乳児、親権停止し手術 両親、宗教理由に拒否 indexへ

 生まれつき脳に病気を持つ乳児の手術を宗教上の理由で拒否した両親に対し、大阪府内の児童相談所が昨年2月、「親権の乱用にあたる」として親権停止の保全処分を大阪家裁に請求し、6日後に認められていたことが分かった。医師が一時的に親権代行者となって手術を実施。乳児は現在、親権を回復した両親に育てられている。親権停止決定には通常数カ月かかることが多く、短期間での決定は異例という。
 乳児は昨年、関西地方の病院で生まれた。脳に異常が見つかり、医師が手術を勧めたが、両親は「神様にお借りした体にメスを入れることはできない」と拒否。乳児を自宅に連れ帰ろうとしたため、病院側が児童相談所に「ネグレクト(育児放棄)に当たる」と通告した。
 児童相談所は「手術をしなければ生命に危険が生じたり、重い障害が残ったりする可能性がある」と判断。親権停止の保全処分を大阪家裁に求めたところ、同家裁は緊急性を認めて6日後に処分決定した。手術後の3月下旬に児童相談所が請求を取り下げ、両親の親権が回復したという。

妊婦転院拒否、断った大阪に余裕なし 満床や人手不足 indexへ

 奈良県大淀町の町立大淀病院で8月、妊婦(当時32)が次々に転院を断られた末に死亡した問題は、重体妊婦の転院を大阪府内の病院の「善意」にすがってきた奈良側の依頼に、大阪側の受け入れが限界に迫っていることを浮かび上がらせた。厚生労働省は来年度までに「総合周産期母子医療センター」を指定するよう通知しているが、近畿では同県だけが整備基準を満たす病院がなく、確立された搬送システムもない。「このままではまた、同じことが起きる」。医療関係者は危機感を募らせている。
 妊婦の容体が悪化した8月8日午前1時50分ごろ、大淀病院は県内の産婦人科の拠点施設・奈良県立医大付属病院に受け入れを要請した。だが、県立医大は満床だったため、「代わりの転院先を探す」と回答。大阪府立母子保健総合医療センター(和泉市)に同2時半ごろ打診したが、ここも満床だったために受け入れられなかった。
 県立医大は同センターに「一緒に探してほしい」と依頼。センターの当直医が照会すると、7病院が拒否し、同4時半ごろに8カ所目の国立循環器病センター(大阪府吹田市)に受け入れてもらえることが決まった。
 大阪府には、24時間態勢で高度周産期医療に対応できる府内43病院が加盟する「産婦人科診療相互援助システム」(OGCS)があり、重篤な母体・胎児の緊急搬送ネットワークが構築されている。数カ所の病院に断られるケースはたまにあるが、奈良のように受け入れ先を探すのに手間取ることはないという。端末をたたけば、どの病院に空きベッドがあるか、すぐわかるからだ。
 今回受け入れを断った大阪市立総合医療センター(都島区)は、9床ある新生児集中治療室(NICU)が満床で、臨時にもう1床を入れてやりくりしている状況だった。病院側は「とても対応できる状態ではなかった。どこから要請があっても、そのうちの3割ぐらいしか受けられない。大阪府内の基幹病院で要請の半分以上を受け入れられるところは少ないはず」と漏らす。
 ベルランド総合病院(堺市)は「人が足りず、責任ある対応ができない」と断った。病院幹部は「当日は分娩(ぶんべん)を待つ3人の妊婦がベッドにおり、うち1人は高リスク分娩。帝王切開が必要な妊婦1人も自宅待機していた。産婦人科部長を自宅から呼び出して当直医と2人で対応していた状況だった」と説明する。
 大阪市内のある私立病院は、依頼の電話の内容が「子癇(しかん)発作で意識消失がある」ということだったため、脳疾患の可能性を疑って対応しきれないと考え、受け入れなかったという。
 母子保健総合医療センターの末原則幸・診療局長兼産科部長は「母体の救急搬送を他府県に依存すれば、今回のようなケースは今後も出てくるだろう。奈良は独自で対応できるような拠点施設を早く整備すべきだ」と指摘する。
 奈良県では重篤な状態になった妊婦の県外搬送が常態化している。県医務課によると、県外病院への搬送率は04年で37%(77件)。県立医大病院経営課は「転院先を探すネットワークなど、特別なシステムがあるわけではない」と話す。
 ある民間病院関係者は「県内の公立病院では、出身大学の人的つながりで受け入れを頼んでいるケースが多い。こうした環境を変えなければ、県外に頼り切りの状態は続く」と指摘する。
 高度医療に対応できる設備を持ちながら、今回、要請されなかった近畿大学奈良病院(同県生駒市)には日頃、公立病院からの受け入れ依頼はほとんどないという。竹中勇人・業務課長は「(奈良県は)転院依頼のルールがはっきりしていない。県を中心に早期にきっちりとしたシステムを確立してほしい」と注文する。

頭痛やめまいの原因、「脳脊髄液減少症」に診療指針 indexへ

 交通事故や激しいスポーツによる衝撃などの後に続く頭痛やめまいなどの原因として、近年注目を集めている「脳脊髄(せきずい)液減少症」について、診療指針がまとめられることになった。京都市で20日開かれた日本脳神経外科学会のシンポジウムで、方針が固まった。日本神経外傷学会や日本頭痛学会など関連学会にも呼びかけ、1年以内の策定を目指すという。
 脳脊髄液減少症は、頭蓋(ずがい)骨などの下、脳と脊髄の周囲を流れている液が漏れて起きるとされる。交通事故などの後に原因不明の不調に悩む人は多く、その中に脊髄液の漏れが原因である人がかなりいるらしいことが分かってきた。だが検査や診断方法などは医療機関によってまちまちだった。
 診療指針のまとめ役の嘉山孝正・山形大教授は「過剰にこの病気とされる人がいる可能性がある半面、診断から漏れている人もいるかも知れない。適正な基準をつくりたい」と言う。
 患者団体のNPO法人「サン・クラブ」の栂(とが)紀久代理事長は「医療機関に行っても『こんな病気はない』と言われ傷つく患者は多い。大きな一歩だ」と言っている。

癌治療学会、研究資金援助「公開を」 透明性確保へ指針 indexへ

 がん治療にかかわる医師らでつくる日本癌(がん)治療学会(約1万5000人)と日本臨床腫瘍(しゅよう)学会(約4000人)は20日、製薬会社の株を持っていたり、研究資金を受けていたりする会員に、自己申告を求める指針案を公表した。企業などとの関係を明らかにして臨床研究の透明性を高める狙い。
 研究が病気の治療に役立つという公的な利益と、研究者の私的な利益が両立しない「利益相反」と呼ばれる状態を避けるため、欧米では多くの学会や学術誌が指針を作り、研究資金提供元の明示などをし、透明性確保を図っているが、日本は遅れていた。
 両学会の「がん臨床研究の利益相反に関する指針案」によると、会員やその配偶者、2親等内の親族は株の保有、企業から受けた講演料・原稿料、研究費などを自己申告し、公開しなければならない。企業や営利団体の役員や顧問などになった場合も同様だ。
 違反すれば、両学会での発表や両学会の刊行物への論文掲載が禁じられる。場合によっては除名などの措置がとられる。
 会員の意見を聞いて来春までに案を詰め、08年4月の実施をめざす。

意識消失の妊婦、1時間以上放置 奈良・町立大淀病院 indexへ

 奈良県大淀町の町立大淀病院で8月、分娩(ぶんべん)中に重体となった妊婦(当時32)が県内外の19病院に搬送を断られ、出産後に脳内出血で死亡した問題で、妊婦は意識を失った後、約1時間20分も治療を受けずに放置されていたことが、朝日新聞が入手した同病院の看護記録でわかった。主治医らは単なる失神と判断し、病床を離れていた。その後の激しいけいれんについても、主治医は妊娠中毒症患者が起こしやすい「子癇(しかん)」と診断。瞳孔の拡大など子癇とは異なる症状も出たが、脳を検査しなかったという。
 看護記録は、助産師が作成した分娩経過記録(パルトグラム)と看護日誌。それらによると、妊婦は出産予定日が過ぎた8月7日午前に入院したが、翌8日午前0時、「こめかみが痛い」と訴えて嘔吐(おうと)し、約15分後、「意識消失」した。当直の内科医が診察し、「失神でしょう」。主治医もその意見に従い、妊婦のそばを離れたとされる。
 だが、午前1時37分、妊婦は意識が戻らないまま手足が棒のように硬く突っ張る「強直性のけいれん」を起こし、「瞳孔開大」となった。駆けつけた主治医は、子癇発作に有効とされる薬剤を投与。緊急の帝王切開をするため、搬送先の病院を探し始めた。
 同4時半、妊婦は「呼吸困難」となり、酸素を送り込むための「挿管開始」。20分後、救急車で大阪府吹田市の国立循環器病センターに向けて搬送されたという。
 この看護記録を見た日本産科婦人科学会の専門医は「意識を失った患者には医師が付き添い、原因を調べなければならない。けいれんが起きるまで1時間以上放置したのは信じられない行為」と驚く。
 さらに、「子癇の場合、妊婦のケースとは逆に瞳孔が狭まる傾向があり、手足が大きく震えるけいれんが伴う」と主治医の診断に疑問を呈し、「子癇と違う症状が出た時点で脳疾患を強く疑うべきだった。けいれんが収まった時点でCT(コンピューター断層撮影)検査ができたし、その時点で脳内出血が判明していれば、ここまで受け入れが拒否される事態にはならなかったのではないか」と指摘する。
 妊婦の死後、遺族が主治医に、再び病床に戻るまでの1時間余、何をしていたのかを尋ねたところ、「仮眠室で寝ていました」と告げられたという。
 大淀病院の横沢一二三(ひふみ)事務局長は「警察の捜査の関係もあり、現段階ではコメントできない」と話した。

腎臓誤廃棄の中京病院、調査委員会を設置 院外の医師も indexへ

 臓器提供のために摘出された腎臓が誤って廃棄された医療事故を受け、社会保険中京病院(名古屋市南区、渋谷正人院長)は19日、院外の医師らを含む「臓器移植事故調査委員会(仮称)」(8人)を設置した。事故を検証し、再発防止策について協議する。来週中にも初会合を開く予定で、1カ月程度で結果をまとめ、公表する。
 外部委員は、上智大法科大学院の町野朔教授(刑法)のほか、医師や生体腎移植者、血液透析者ら5人。内部委員として、中京病院の医師1人と看護師2人も加わる。

小・中学生の医療費、都が助成 育児環境格差を解消へ indexへ

 東京都は、小・中学生の医療費の一部を独自に助成する新制度を導入する方針を18日、固めた。小学校入学前の乳幼児を対象にした医療費助成は全国的に進んでいるが、小・中学生の通院・入院とも対象にするのは、都道府県レベルでは全国で初めて。助成額を底上げすることで少子化対策を充実させ、区市町村ごとに異なる子育て環境の格差も是正するのが狙い。来年度から導入する見通しで、年間経費は30億円弱になるとみられる。
 都の現状では、3歳未満の場合、医療費のうち本来は自己負担になる2割分を、3歳以上で小学校入学までは3割分を、都と区市町村が全額助成している。しかし、小学校入学後は都などの助成がなくなり、全体の3割に当たる自己負担が生じている。このため、一部の区市町村は独自の制度で中学卒業までは自己負担分を助成しているが、住む区市町村で負担額が大きく違うのは不公平だとの声も出ていた。
 都の新制度では、小・中学生の医療費で自己負担となる3割分のうち1割分を都と区市町村で半額ずつ助成する。国の児童手当に準じて所得制限を設ける見通しで、サラリーマン世帯の場合、年収860万円未満の世帯が助成対象となる見込み。都内に約85万人いる小・中学生のうち、8割前後が対象になるとみられる。
 国は少子化対策の一環で、小学校入学前の自己負担相当額を、08年度から一律2割にそろえる方針で、その場合は都と区市町村の負担が約25億円減る。これを新制度の原資に回し、中学卒業まで自己負担を2割に抑える考えだ。
 全国的に見ると、都道府県が医療費を助成する対象は、入院費では小学校入学までとしているのがほとんどだが、通院費では小学校入学まで助成しているのは約4割にとどまっている。都の新制度は入院・通院を問わず、中学生まで対象にしている。
 都は新制度で、助成額の拡充によって出産や子育てのしやすい環境を整え、子育て家庭の定住を促したいとしている。

薬の副作用対策に手引き まず9疾患、厚労省が作成へ indexへ

 厚生労働省は、抗がん剤「イレッサ」で多数の死者を出した「間質性肺炎」など、薬の副作用による九つの重い疾患についての安全対策マニュアルの原案をまとめた。早期発見と症状の悪化を防ぐのが目的で、19日に専門家の検討会を開き、正式に決める。医療従事者だけでなく、患者も参考にできるようにホームページで公開する。08年度中には対象疾患を120に拡大する方針だ。
 今回、マニュアルを作るのは「間質性肺炎」のほか、皮膚がただれて失明や死に至ることもある「スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)」、筋肉細胞が壊れる「横紋筋融解症」、「アスピリンぜんそく」など。
 薬の添付文書には副作用の可能性が書いてあるが、例えば、SJSを引き起こす薬は、かぜ薬や抗菌剤など市販品も含め200種類以上ある。
 副作用による疾患は、特に初期の段階は、かかりつけの医師では気づかないことも多く、悪化するケースもなくならない。このため同省は、赤い発疹が広がったり水疱(すいほう)ができたりしたらSJSを疑うなど、症状から副作用の可能性をたどることができる手引が必要と判断、関係学会と協力し、内容を詰めていた。
 マニュアルでは、副作用による疾患の初期症状や、原因として考えられる薬、その服薬期間、治療方法などを紹介する。患者向けと、医師や看護師ら医療従事者向けの2部構成。副作用被害の救済などに取り組む「医薬品医療機器総合機構」のホームページに、近く掲載する。

不妊治療助成に指針 医療機関の質向上はかる 厚労省 indexへ

 体外受精などの不妊治療を行っている医療機関のうち、採卵室の清潔さや機器の設置など、日本産科婦人科学会の施設基準を満たしているのは全体の15%にとどまり、施設によって治療水準にばらつきがあることが18日、厚生労働省の研究班の調査で分かった。同省は特定の不妊治療に助成しているが、助成対象となる治療を行う施設には一定の水準が必要と判断、来春までに指定要件の指針を作ることになった。
 この日開かれた特定不妊治療費助成に関する検討会の初会合で報告された。学会の基準では、体外受精などを行う医療機関は、採卵室の設備や清浄度を手術室と同等とするなどの条件がある。しかし、努力目標にとどまっており、同省のアンケートに答えた287施設のうち、すべての基準を満たしたのは42施設。配置が望ましいとされる不妊カウンセラーがいる施設も42%にとどまった。
 同省は、各施設の設備や人員の現状を踏まえながら指針を作る。不妊治療の助成額は年10万円までだが、来年度から少子化対策として20万円にする方針。指針の水準に満たない施設での治療には助成せず、医療機関の質の向上をはかる考えだ。

患者24人分の情報入ったPC、東大病院医師が紛失 indexへ

 東京大学付属病院(東京都文京区)は18日、同病院の外科系の女性医師(30)が、患者24人分の氏名や住所、生年月日、電話番号、顔や胸など患部の写真が入った私有ノートパソコンを紛失したと発表した。パソコンにはパスワードが設定してあり、今のところ、情報の流出は確認されていないという。
 同病院によると、8日夜、横浜市のホテルで開かれた学会の懇親会で、パソコンを入れたバッグごと盗まれた。24人の患者は、今年4月以降に女性医師の診察を受けていたという。
 同病院は患者の個人情報の院外の持ち出しを禁止しており、調査委員会を設置した。総務課は「周知徹底を図っていきたい」としている。

新型インフルのワクチン 来年にも承認申請 indexへ

 北里研究所など四つの国内ワクチンメーカーは17日、新型インフルエンザの流行初期に効果が期待される新たなワクチンについて、今年度中に大規模な臨床試験を終え、来年前半にも製造承認を申請すると発表した。
 新たなワクチンは「プレパンデミックワクチン」と呼ばれ、鳥インフルエンザウイルスから分離、弱毒化して製造する。本格的なワクチンは新型インフルエンザ発生後に開発に着手、製品化には最低半年かかるといわれる。今回のワクチンはそれまでの間の対応を想定している。厚生労働省は1000万人分の備蓄を目指している。
 メーカーは04年から開発を始め、今年7月末までに360人を対象に臨床試験を終えた。5マイクログラム(マイクロは100万分の1)のワクチンを2回接種したグループには、70%以上に抗体の上昇がみられたという。
 安全性については、突発性難聴が1例あったほか、悪寒や頭痛、発熱などが一部に見られたが、ほとんどは注射部位の局所反応で、大きな問題はなかったとしている。
 メーカー側は「各国で開発中のワクチンに比べ、少量で免疫ができるところが優れており、新型への予防効果が期待できる」と話している。

奈良の妊婦が死亡 18病院が転送拒否 indexへ

 奈良県大淀町の町立大淀病院で今年8月、出産中の妊婦が意識不明の重体に陥り、受け入れ先の病院を探したが、同県立医大付属病院(同県橿原市)など19病院に「ベッドが満床」などと拒否されていたことがわかった。妊婦は約6時間後に約60キロ離れた大阪府吹田市の国立循環器病センターに搬送され、男児を出産したが、脳内出血のため8日後に死亡した。
 妊婦は、奈良県五條市に住んでいた高崎実香さん(32)。大淀病院によると、出産予定日の約1週間後の8月7日に入院した。主治医は高崎さんに分娩(ぶんべん)誘発剤を投与。高崎さんは8日午前0時ごろ頭痛を訴え、約15分後に意識を失った。
 主治医は分娩中にけいれんを起こす「子癇(しかん)」発作と判断、けいれんを和らげる薬を投与する一方、同日午前1時50分ごろ、同県の産婦人科拠点施設・県立医大付属病院に受け入れを依頼したが、断られたという。
 付属病院と大淀病院の医師らが大阪府内などの病院に受け入れを打診したが拒否が続き、国立循環器病センターが応じた。高崎さんは同センターに同日午前6時ごろ到着、脳内出血と診断され、緊急手術で男児を出産したが、8月16日に死亡した。男児は元気だという。
 大淀病院の横沢一二三事務局長は「脳内出血を子癇発作と間違ったことは担当医が認めている」と話した。搬送が遅れたことについては「人員不足などを抱える今の病院のシステムでは、このような対応はやむを得なかった。補償も視野に遺族と話していきたい」としている。
 実香さんの夫で会社員の晋輔さん(24)は「病院側は一生懸命やったと言うが、現場にいた家族はそうは感じていない」と話した。生まれた長男は奏太ちゃんと名付けられた。実香さんと2人で考えた名前だったという。

難病の無料治療縮小、軽症は有料化 厚労省方針 indexへ

 厚生労働省は、難病の治療方法や原因を究明する事業の対象となる病気を来年度から見直す方針を固めた。これまで45種類の病気を対象に治療費を無料にしてきたが、対象患者数の多いパーキンソン病や潰瘍(かいよう)性大腸炎について、軽症者などを無料の対象から外す方向で検討している。予算の大半が治療費に回り、本来の目的である研究費が捻出(ねんしゅつ)できないのが理由だ。72年の事業開始以来初めての見直しで、新たに別の難病を指定することも視野に入れている。
 難病対策では、新たな病気が次々と追加される一方で、原因が判明するなどして指定を外れたものは一つもない。難病治療のうち保険が適用されるものについて、患者の自己負担分が公的に支給されている患者数は54万人に膨らみ、昨年度の総額は760億円。一方の研究費は20億円だけになっている。
 このため厚労省は、97年に決めた難病指定の要件を満たさない病気について、見直すことにした。(1)希少性(おおむね5万人未満)(2)原因が不明(3)効果的な治療が未確立(4)生活への長期の支障がある、の4要件で、パーキンソン病(支給対象者約7万3000人)と潰瘍性大腸炎(約8万人)が見直しの対象となっている。
 この二つの病気については、無料対象者を重症者に絞り込むなどして、5万人に収まるようにする方針だ。除外された人は、通常の医療保険制度が適用され、自己負担が発生する。
 今年8月、厚労省は「特定疾患対策懇談会」(金沢一郎座長)を開き、患者数の多い病気を対象から外すことを検討した。しかし、患者団体は反発。全国パーキンソン病友の会は「薬代の公費負担がなくなれば、月5万円の負担増の人もいる。働き盛りで発症し、収入がない患者も少なくない」といい、潰瘍性大腸炎などの患者組織の萩原英司・世話人は「補助がなくなれば、自己負担が厳しくて病院に通う人が少なくなり、研究に協力する人も減ってしまう」と反対している。
 その結果、懇談会は「特定疾患からの除外は行わず、希少性の要件に収まるよう対象者の範囲を見直す」との方向でまとまりつつあり、厚労省は、この方向で見直しを検討していた。
 現在、胆道閉鎖症や1型糖尿病など少なくとも九つの病気の患者会が新たな難病指定を要望しているが、すでに指定されている難病の患者数は毎年増えており、03年以来、追加指定はされていない。
 厚生科学審議会難病対策委員を務めた小池将文・川崎医療福祉大教授(社会政策)は「難病の研究促進と患者の治療費軽減を抱き合わせで解決しようとしたことに根本的な問題がある。財源も研究費の形をとったため、財政難の時は予算確保が難しい。研究を進めるべき難病は他にもたくさんあるのに、国は事業から外される患者の痛みとの間でジレンマに陥っている」と話している。

東京医科大病院で院内感染か がん患者4人死亡 indexへ

 東京医科大学病院(東京都新宿区)は16日、がん治療で入院していた患者5人から、抗生物質が効きにくい多剤耐性緑膿菌(りょくのうきん)が検出され、うち4人が今年8月から2カ月間に相次いで死亡したと発表した。同病院は「院内感染の可能性が高い」とみており、感染と死亡との因果関係や感染ルートなどについて、外部の調査委員会を設置して調べるという。
 病院によると、亡くなった4人はいずれも40〜50歳代の女性で難治性のがん患者だった。今年8月、1人が肺炎で死亡し、たんから同菌を検出。9月にさらに2人が肺炎で死亡し、血液から同菌が検出されたため、病院が他の患者を検査したところ、同じ病棟の1人の感染が分かった。この患者は検査後、肺炎で亡くなった。
 同病院の岩本俊彦病院長は、4人は強い抗がん剤治療を受けていたため免疫力が極度に弱っていたと説明したうえで、「多剤耐性緑膿菌に感染したことが死亡にどの程度影響を与えていたのか、はっきりしない」と話している。
 残りの1人は60歳代の男性で、すでに退院しているという。
 多剤耐性緑膿菌は、抗生物質などの薬が効かない耐性菌の一種で、高齢や病気などで免疫が落ちている人が感染する。感染すると治療が難しく、肺炎や敗血症などになることがある。

50代女性が代理出産、娘夫婦の受精卵で 国内初 indexへ

 50代後半の閉経後の女性が、娘夫婦の受精卵を子宮に入れて妊娠、昨春に出産していたことを、諏訪マタニティークリニック(長野県下諏訪町)の根津八紘(やひろ)院長が15日、東京都内で記者会見を開いて明らかにした。国内で「孫」を代理出産した事例の公表は初めてだ。子どもは女性の子として届けた後、娘夫婦と養子縁組したという。こうした代理出産は、家族関係が極めて複雑になる。日本産科婦人科学会(日産婦)は会告(指針)で代理出産を禁じているが、法律の取り決めはない。是非や法整備をめぐる議論が活発化しそうだ。
 根津院長によると、娘は30代で、約4年前に子宮がんで子宮を摘出。2年前に「母が産むと言ってくれている」と院長にメールを送り、代理出産を相談した。
 その後、女性と夫、娘夫婦の計4人が、約2カ月間に3、4回、院長と話し合った。院長は、高齢出産が心臓や脳血管などに及ぼす危険性について蓄積されたデータがなく、命にかかわる危険もあり得ること、女性がすでに閉経し自然に妊娠できない状況なので、女性ホルモンを使う必要があることなどを説明。人間ドックの結果などから、女性に高血圧など特に心配な症状がないと判断し、娘夫婦の受精卵2〜3個を子宮に入れた。
 女性は昨春、約2400グラムの赤ちゃん1人を出産。赤ちゃんの性別は明らかにされていない。女性は出産後、自律神経失調症など更年期に特有な症状が強く出たが、女性ホルモンを一時補充することで解決したという。
 根津院長は会見で、米国人の代理母が産んだ、タレント向井亜紀さん夫妻の子どもの出生届を巡る裁判に触発され、今回の公表に踏み切ったと述べた。また、「親子愛のもとで行われる実母による代理出産は、子どもの引き渡し拒否や補償などもなく、(姉妹間や第三者による代理出産と比べて)一番問題が起こりにくい」と主張した。以前に公表した2例も含め、これまでに姉妹などによる計5例の代理出産を手がけたとしている。
 日産婦倫理委員長の吉村泰典慶応大教授は、学会の会告違反は明白で事実確認をするとしながらも、「代理出産について国の方針が定まっていない現状では、法による禁止を見込んで決めた会告違反だけを根拠に、除名などの処分を下すことはできない。学会レベルで議論するには大きすぎるテーマだ。国内外での代理出産ですでに生まれた子どもの権利をどう確保するかを含めて、もっと社会全体で話し合う必要がある」としている。

 〈キーワード:代理出産〉 子宮を失ったり、元々なかったりする女性に代わり、別の女性(代理母)が子どもを産む方法。夫の精子を代理母の子宮に注入する方法と、夫婦の受精卵を代理母の子宮に移す方法がある。
 今回のように娘夫婦の受精卵を使って娘の母親が代理出産したのは、87年の南アフリカでの例が最初とみられる。前の出産時の出血で子宮を摘出した25歳の娘に代わって、48歳の母親が三つ子を産んだ。94年には匿名の第三者から娘夫婦に提供された受精卵を使って娘の母親が代理出産した英国の事例や、子宮内膜症で不妊の娘に代わって55歳の母親が出産した米国での例が公表された。
 代理出産は欧州ではフランスやスイスなどが禁止し、英国は非営利のみ認める。中国衛生省は今年4月、代理出産を禁じる方針を示した。米国は一部の州が州法で手続きなどを定めている。

根津院長「リスク説明は明文化」 代理出産で会見 indexへ

 国内で初めて「孫」の代理出産を公表した諏訪マタニティークリニック(長野県下諏訪町)の根津八紘(やひろ)院長の記者会見での主なやりとりは次の通り。
――高齢出産だが。
 50代は通常でも脳血管などに問題が出てくる年齢。妊娠・出産というストレスが加わって、どう変化していくのかは未知数だった。海外を含め十数例ぐらいしか母親の代理出産はないからだ。
――危険性の説明は。
 高齢出産が何を引き起こすかもわからないし、致命的なことが起きうることなどを説明した。母親は「自分の命を捨ててでも」と言ったが、2例に1例しか成功しないのであれば、しなかった。
――今回公表した計5例以外に代理出産は。
 ないが、何とかしなければならないと思う相談が2、3例ある。母親の代理出産も含まれる。
――同意書は。
 誓約書という形でとった。生まれてくる子どものためにみんなでサポートしてほしいなどだ。リスクの説明についても明文化している。
――子どもへの精神的なフォローは。
 ある日突然言うのではなく、繰り返し「おばあちゃんのおかげでお前は生まれたんだよ」と言うようにと話した。
――学会の指針に反したが。
 学会の決定は絶対ではない。私は非配偶者間の体外受精をして一時学会を除名されたが、している有名な不妊治療施設がある。代理出産を実施した施設の情報もある。

生体移植の倫理指針を補強へ 日本移植学会 indexへ

 愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院で行われた生体腎移植をめぐる臓器売買事件を受け、日本移植学会(田中紘一理事長)は、生体移植に関する倫理指針を補強する。5日に設置した特別委員会で、臓器提供者(ドナー)の意思について、弁護士やソーシャルワーカーら第三者が確認し、書面で記録を残すことを義務づけるなどの具体的内容を検討する。
 今回の事件ではドナーの意思確認が十分にされていなかった疑いがもたれている。現在、ドナーの意思は担当医に対して書面で示されることになっている。しかし、現行の倫理指針では、客観的な確認手段が明記されていない。このため、ドナー本人や家族らに加え、ドナーの立場に立って自発的な意思であるかどうかを確認する役割を担う第三者にも、手術の同意書などへの署名や、意思確認の結果を文書で記録に残すことを義務化する案が浮上した。
 現行の倫理指針は03年にできた。この中で第三者については「家族以外の移植医療に関与していない第三者で、ドナーの権利保護の立場にある者」と規定。具体的には弁護士や精神科医、ソーシャルワーカーなどを想定しているが、だれを「第三者」にするかは各医療施設に任されている。
 ところが、04年に同学会が実施したアンケートでは、第三者を定めていない医療機関が27.2%あり、倫理指針が十分に定着していないことがわかった。このため今回の事件を受け、特別委員会が追跡調査をすることにしている。
 一方、今回の事件のように移植を手がけた医師が非学会員の場合は、学会の倫理指針に反していても十分な指導ができない。このため、厚生労働省は臓器移植法施行時に作成した「臓器移植法の運用に関する指針(ガイドライン)」に、生体臓器移植に関する規定を新たに加える方針だ。

提供された腎臓捨てる 社保中京病院 名古屋 indexへ

 社会保険中京病院(名古屋市南区、渋谷正人院長)は13日、同病院で死亡した男性から臓器移植のため腎臓二つを摘出した後、職員が誤って廃棄した、と発表した。このため移植予定だった2人が腎提供を受けられなかったという。
 同病院などによると、腎臓を摘出されたのは50代の男性。家族から同意を得て、男性が心停止した後の同日午前9時55分から摘出手術。同11時25分に摘出が終わった。
 腎臓は袋や容器で密閉され、クーラーボックスに入れられた。通常は、手術室の「受付部屋」に一時保管していたが、この日は、誤って使用済み手術器材などと一緒に「クリーンアップルーム」に運ばれた。その部屋で看護助手らが保存容器や袋を開け、腎臓を不要な組織を入れる感染性組織処理箱に捨てた。このため腎臓が汚染され、移植できなくなったという。
 二つの腎臓のうち一つは同病院で、もう一つは同市内の別の病院で腎不全患者に移植される予定で、白血球型が適合するかなどの最終的な検査を待っているところだった。同病院で、腎提供があるのは月1件ほどという。
 会見した絹川常郎・泌尿器科主任部長らは「医師が責任をもって管理すべきだった。提供意思に応えられず、腎移植を受けられなかった人らに心からおわびします」とした。今後、外部委員を加えた調査委員会を置き、原因を究明して再発防止に努めるとしている。
 日本臓器移植ネットワーク中日本支部の山崎親雄支部長は「このような事例は、ほかの臓器を含めて聞いたことがない。クーラーボックスに『移植用』などの表示があれば防げたのでは。ネットワークとして今後、ガイドラインなどを検討したい」と話した。

男性教師の抑うつ感、他職種の1.8倍 indexへ

 小中高校の先生は他職種より、ストレスを強く感じており、特に「抑うつ感」を感じている男性は1.8倍に上ることが、全国約2500人を対象にした調査で分かった。仕事の負担感や学級崩壊による児童・生徒への対応などの要因が複雑に絡み合っており、その相関関係も示した。「心の病」で休職する先生が増えるなか、その原因を分析した初の調査で、仕事の内容を検討する必要があると提言している。
 調査は財団法人労働科学研究所(川崎市)が設置した「教職員の健康調査委員会」(委員長、清水英祐・東京慈恵会医科大教授)が、昨年11月に実施した。岩手、神奈川、大阪、鳥取、大分の5府県の教諭らを無作為に抽出し、2485人から回答を得た。13日に、同研究所が主催するシンポジウムで発表する。
 厚生労働省が開発した「職業性ストレス簡易調査票」を使って、ほとんどの職種にまたがる約2万5000人の労働者が回答した標準値と比較した。その結果、男性で「抑うつ感が強い」と回答したのは11.5%と、標準値より1.8倍高く、「不安感が強い」も1.5倍高かった。女性は抑うつ感はほぼ同じだったが、不安感は1.3倍高かった。
 委員会はうつ病の症状の一つである抑うつ感の原因に注目。関連性が強いのは、心理的な仕事の負担感だった。「仕事量が多い」と感じている人は標準値と比べ、男性が2.2倍、女性が4.6倍。
 さらに、背景となる原因を探ると、学級崩壊などで児童や生徒の授業態度が変化し、対応が難しくなったことや、授業の準備時間がなかなか取れないことが浮かび上がった。
 労働科学研究所の酒井一博・研究主幹(産業衛生)は「教師の抑うつ感は、子どもへの影響が大きい。忙しすぎるだけでなく、子どもとの向き合い方が難しくなっており、教職員の仕事内容を再検討する必要がある」と話している。

新生児取り違え、都に2千万円賠償命令 高裁で逆転判決 indexへ

 DNA鑑定で両親と血のつながりはないとわかった福岡市の自営業の男性(48)と育ての親夫妻が、本当の親や子と生き別れたのは男性が生まれた東京都立墨田産院(廃止)でほかの新生児と取り違えられたからだとして、都に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が12日、東京高裁であった。岩井俊裁判長は、請求を棄却した東京地裁判決を取り消し、「取り違えにより真の親や子と家庭生活を過ごすことができず、産院の重大な過失で人生を狂わされた」として都に計2000万円の支払いを命じた。
 男性は58年4月生まれ。体調を崩した母親が97年、病院で血液検査をしたところ、B型と判明。父親はO型、男性はA型で、通常の親子ではあり得ない組み合わせとわかった。04年にはDNA鑑定を受け、やはり「親子関係にない」との結論が出た。男性が46歳の時だった。男性と両親は同年、計3億円の賠償を求め提訴した。
 高裁は、原告側が保管していたへその緒が男性のものとDNA鑑定で確認されたことから、へその緒がとれた生後5日目ごろまでに取り違えがあったと認定。その上で、提訴まで46年という時の経過で賠償請求権が消滅したかどうか検討した。
 今回の例で賠償を求める根拠となりうるのは、(1)産院が「新生児を取り違えずに両親に引き渡す債務」を果たさなかったという「債務不履行」(2)故意か過失により取り違え、他人の権利や利益を侵害したという「不法行為」――の二つだ。
 (1)に基づく賠償請求権は10年間行使しない時は消滅し、「10年」の消滅時効の起算点は「権利を行使できる時」になる。
 岩井裁判長は、取り違えはこの「債務不履行」にあたると判断。取り違えは非常にわかりにくく、その事実を知ることのできる事情が生じて初めて権利行使が期待できると述べた。今回の例では、血液検査の結果が出た97年10月ごろには、更にDNA鑑定することも可能だったとして、この時を時効の起算点とし、提訴時には消滅時効は成立していないとした。
 一審は取り違えは認めたが、「時効起算点は生後8日目の退院時。提訴時には請求権は消滅した」と判断。二審と結論を分けた。
 一方、(2)の「不法行為」にあたると見た場合、「不法行為から20年」(除斥期間)が過ぎた時は原則として一律に請求権が消滅するとされている。一、二審とも、取り違えから20年で請求権は消滅すると判断した。原告側は「請求権が消滅すると解釈すれば著しく正義・公平の理念に反する」と主張したが、この点は一審同様に退けた。

京都大病院、肺移植事故のミス認め謝罪 indexへ

 京都大付属病院で3月、肺の移植手術を受けた30代の女性が、手術後も意識を回復しなかった問題で同病院は12日、調査委員会による調査結果を発表した。同委員会は、人工心肺を使った手術中に血圧低下など複数の異常を見逃した結果、脳の酸素不足状態を引き起こした、と指摘。内山卓病院長は、移植チームの連携不足で患者の身体管理の責任者が術中に不在になるなど「重大な過誤があった」として謝罪した。
 同病院は、再発防止体制が確保されるまで肺移植の自粛を継続する。
 女性は肺リンパ脈管筋腫症という難病で、3月21日に移植手術を受けた直後から、術中の脳の酸素不足が原因とみられる意識不明の状態が続いている。同病院は4人の院外委員ら計12人による調査委員会を4月に作り、原因究明を進めていた。
 手術中の各種値やビデオ、医師らへの聞き取り調査などを分析。人工心肺を使い体外で血液に酸素を供給する体外循環が不十分なまま人工呼吸器を止めたため、酸素不足の血液が脳に流れ、その後起きた低血圧が重なり脳が酸素不足となった可能性を指摘した。

生体移植、厚労省が国指針 愛媛の臓器売買受け indexへ

 愛媛県の宇和島徳洲会病院であった生体腎移植をめぐる臓器売買事件を受けて、厚生労働省は12日、生体臓器移植について初めて国の指針をつくる方針を固めた。提供意思について、移植医療に関与しない者が強制でないことを確認する規定などを盛り込むとみられる。これまでは日本移植学会の倫理指針しかなかった。今回は移植を手がけた医師が学会に入っておらず、指針で定める移植手続きを守っていないのに十分な指導ができなかったことから国が動いた格好だ。
 生体臓器移植について学会が03年に定めた倫理指針は、臓器提供者(ドナー)を親族に限定。親族でない場合は、医療機関の倫理委員会が有償でないか、任意かどうかなどに留意し、承認することなどを求めている。
 今回の事件では、移植を手がけた医師が非学会員で、患者に十分な説明をしたうえで手術の同意書を取っておらず、病院に倫理委員会を設置していないなど学会指針に反していたことが明らかになった。
 しかし、学会は権限がなく、医師らを調査できずにいたため、厚労省は学会とは別に指針を定め、非学会員の医師にも指導を徹底できる態勢を整えることにした。
 現段階では、臓器移植法施行時に作成した「臓器移植法の運用に関する指針(ガイドライン)」に、生体臓器移植に関する規定を新たに加える方向で検討している。
 同省臓器移植対策室は「学会が倫理指針を見直しているのと並行して進めたい。(事件で問題となっている)ドナーの本人確認のあり方なども入れるか慎重に議論していきたい」としている。

「後発医薬品は劣る」先発メーカー、独禁法違反のおそれ indexへ

 新薬の特許が切れた後に同じ成分で開発し、価格を安く抑えた後発医薬品(ジェネリック医薬品)について、先発品メーカーが医療機関に営業活動をする際、品質が劣ったり、製造上の欠陥が多かったりするかのような不適切な説明をする例があることが公正取引委員会の調査でわかった。公取委は独占禁止法が禁じる不公正な取引方法(取引妨害)にあたるおそれがあるとして製薬業界団体などにこうした行為をしないよう要請した。
 500医療機関(回答は355)、医薬品メーカー113社(同98)などにアンケートやヒアリングをし、医療用医薬品の流通実態をまとめた。
 医療機関や後発品メーカー側への聞き取りによると、一部の先発品メーカーの担当者は「ほかの医療機関で後発品に置き換えたら吸収性などに違いがあり、先発品に戻した」などとうその話をしたという。また、一部の後発品で製造上の欠陥から有効成分が半分しかなかったことが話題になると、後発品は一般に欠陥が多いというように中傷したという。
 品質検査で異なる被験者を比較したり、まれに出た検査結果を示して後発品に問題があるとしたりしたケースもあった。
 後発医薬品の普及は医療費の抑制に効果があるが、日本では欧米よりシェアが低いとされる。

医療廃棄物、14府県に2万個漂着 多くは海外からか indexへ

 環境省は、日本海や東シナ海沿岸の府県に流れ着いた注射器や薬のびんなどの医療廃棄物が、今夏も2万個を超えたと発表した。漂着が確認されたのは山形県から鹿児島県までの14府県にのぼった。05年は10月末までに15府県で計2万4000個以上が漂着した。
 9月22日現在の集計では計2万187個。県別では福岡県の5348個を筆頭に、長崎県5183個、佐賀県3434個など九州が多かった。昨年1万個余りと最多だった鳥取県は1701個。
 どこで捨てられたかはわからないが、795個に中国語、27個にハングルの表記があり、同省は海外で廃棄されたものが多いとみている。

C型肝炎ウイルス、どう増える 阪大教授ら仕組み解明 indexへ

 C型肝炎ウイルス(HCV)が細胞内の特定のたんぱく質と結びついて増殖する仕組みを大阪大学微生物病研究所の松浦善治教授(分子ウイルス学)らが解明した。この結びつきを阻害する化合物を見つければ、ウイルスを直接攻撃しないため、薬が効かない耐性ウイルスができにくい薬の開発につながるという。独科学誌「EMBOジャーナル」(電子版)に5日、発表した。
 HCVが体内で増えたり病気を起こしたりする仕組みは、これまでほとんどわかっていなかった。ウイルスはふつう感染した細胞内にあるたんぱく質や脂質などを利用して増殖するため、松浦教授らは、HCVが細胞内でどのようなたんぱく質と結びついているかを探した。
 その結果、FKBP8と呼ばれるたんぱく質を介して「分子シャペロン」と呼ばれるたんぱく質の一種と結びついていることを見つけた。FKBP8の量を減らすと、HCVの増殖が抑えられることも確認。HCVの増殖に分子シャペロンとの結合が不可欠であることがわかった。
 C型肝炎に対して、ウイルスが持つたんぱく質の働きを阻害する薬の開発が進んでいるが、ウイルスの変異が激しく、耐性ウイルスの出現が心配される。HCVと分子シャペロンの結合を阻害する化合物がみつかれば、ウイルスの変異には影響されにくいため、松浦教授は「耐性の心配の少ない薬剤の開発が可能になる」としている。

療養病床ある病院、7割が収入減 新診療報酬で indexへ

 病状が安定したお年寄りが長期入院する療養病床を減らすために7月から新たな診療報酬が実施されたことに伴い、療養病床がある病院の7割が収入減となっていることが4日、日本病院会(2702病院加盟、山本修三会長)の調査で分かった。同会は「経営が成り立たない療養病床が閉鎖され、行き場を失うお年寄りが続出するおそれがある」としている。
 調査は会員の1015の病院を対象に実施、216病院から回答があった。今年7月の病院収入を昨年同期と比べると、療養病床のうち医療保険から支払われる病床をもつ病院の68.5%で収入が減っており、約2割は20%以上の減収だった。
 今回の診療報酬改定では、患者を医療の必要度で三つに区分し、病状が重い人の入院料を引き上げる一方、病状が軽い人の入院料は大幅に引き下げた。このため、病状の軽い人の割合が多い、療養病床を持つ病院が収入減となったとみられる。
 療養病床には、医療保険から支払われる「医療型」と、介護保険から支払われる「介護型」があり、合わせて全国に約38万床ある。厚生労働省は医療費削減のため、12年度までにこれらの約6割を削減する方針で、リハビリを中心とした介護施設への転換を狙っている。
 同会は「厚労省の基準で病状が軽いとされた入院患者でも、多くは持続的な治療が必要だ。療養病床の廃止によって医療の質が低下するのは確実だ」としている。

移植学会が特別委設置へ 臓器売買受け臨時理事会 indexへ

 日本移植学会(田中紘一理事長)は5日、愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院で実施された生体腎移植手術をめぐる臓器売買事件を受け、臨時の理事会を東京都内で開いた。特別委員会を設け、同病院での生体腎移植の過去の症例の調査を行うことなどを決めた。また学会の倫理指針に、生体移植手術前の提供意思確認のあり方を盛り込む検討もする。
 特別委は、生体移植を実施する全国の施設にアンケートを取る方針で、手術前の提供者にどんな意思確認をしているかなど質問項目を検討するという。月内にまとめ、理事会に報告する。
 理事会終了後の会見で、委員長に就任した大島伸一・副理事長は今回の事件に触れ、執刀医だった万波(まんなみ)誠医師のインフォームド・コンセントのあり方について、「医療に対する倫理観が私たちと全く違う」と指摘。
 さらに「提供者が純粋な気持ちで臓器を提供するつもりなのかを医師が確認することは、とても大切なこと。まして今回は非血縁者間。すぐに手術を決めたことは、(通常は)考えられないことだ」と批判した。

データ捏造し乳がん治療の論文 自衛隊中央病院の医官 indexへ

 防衛医大は5日、自衛隊中央病院(東京都世田谷区)に勤務する医官の佐藤一彦3等陸佐(38)が、乳がんの放射線治療に関する論文を、データを捏造(ねつぞう)して米国の専門誌「サージェリー」に投稿し、掲載されていたと発表した。同誌は9月、論文の取り下げをインターネット上で公表した。同大は「処分を含め対応を検討する」としている。
 防衛医大によると、佐藤3佐は、同大医学研究科に所属していた05年5月に論文を投稿。その中で、局所浸潤性乳がんの患部へ局所的な放射線照射をした後、最小限の病巣を切除する「乳房温存療法」を施して、12例の手術でいずれもがん細胞が死滅するなどの効果を上げたかのように記載した。
 しかし、実際は12例のうち5例は手術自体をしておらず、残る7例は、がん細胞根絶のために一般的に行われる、全乳房への放射線照射を術後に施していながら、その事実を書いていなかった。
 この論文は今年5月、佐藤3佐を含む7人の共著として同誌に掲載されたが、共著者とされた男性医師が6月、「論文の内容が事実と異なる」と同誌に告発。7月になって防衛医大にも指摘があったため、同大が調査委員会をつくって事実関係を調べたところ、佐藤3佐が「読者の興味をそそる内容にしたかった。申し訳なかった」と事実を認めたという。
 共著者とされた6人のうち、5人は投稿自体を知らされておらず、1人は事前に原稿に目を通していたが、内容の不備に気付かなかったという。

肝炎治療もオーダーメード 遺伝子情報DB化 indexへ

 感染者が300万人に上るといわれるB型、C型肝炎対策として、厚生労働省は来年度から、患者一人ひとりの遺伝子などを分析し、それに基づいた治療法を探る「オーダーメード治療」に取り組む。同じ症状なのに治療薬が効く人と効かない人がいたり、強い副作用が出たりする仕組みを解明し、新薬の開発などにもつなげるのが狙いだ。
 ウイルス感染が原因のB型、C型肝炎の治療では、インターフェロンなどの薬でウイルスを駆除したり、治療薬で肝がんの発症を抑えたりするのが主流。しかし、効果は個人差があり、現在の治療で完治できるのはC型で約6割、B型で約4割といわれる。発熱や貧血などの副作用もあり、薬が使えないケースも出ている。
 このため、同省は来年度から3年計画で、「オーダーメード治療」に着手。肝炎治療に熱心な医療機関の協力を得て患者の血液を採取し、遺伝子情報などを収集する。さらに、ウイルスのタイプも解析し、09年度をめどに、病状などの臨床情報と合わせて少なくとも数百人規模の統一的なデータベースをつくる。遺伝子のどの部分が治療薬の効果や副作用などに影響を与えているかなどを調べる。その原因が分かれば、新薬開発の研究にも役立つという。
 オーダーメード治療は、患者の遺伝子情報から、体質や病状などに応じた医薬品や処方を選ぶ手法。治療効果が高まるほか、無駄な医薬品の使用が減るため、副作用だけでなく医療費の削減効果もあるという。がん治療などの分野が先行している。
 肝炎は「国民病」ともいわれ、同省の推定では、発症していない感染者はC型で150万〜190万人、B型で110万〜140万人。加えて、肝がんや肝硬変などの患者はC型で約52万4000人、B型で約9万7000人(いずれも02年10月時点)。潜伏期間が数十年に及ぶケースもあり、感染を知らない人が多いことが問題になっている。
 国立感染症研究所の脇田隆字・ウイルス第二部長は「ウイルスのデータ収集や研究は行われていたが、患者側のデータの蓄積はなかった。患者の遺伝子とウイルスの情報、副作用や病状変化などの臨床情報を積み上げて活用できれば、きめ細かい治療ができるようになる」と期待している。

AEDに不具合、2387台を自主回収 indexへ

 医療機器輸入販売会社「日本メドトロニック」(本社・東京都港区)は4日、救命機器「自動体外式除細動器(AED)」に不具合が見つかったとして、米国の親会社が製造し、同社が今年1〜8月に全国の学校や駅などに出荷した2387台の自主回収を始めた。
 対象となるのは「ライフパック CR Plus」で、電子部品に不具合があり、保管中にバッテリーが消耗して電源が入らなくなるケースが国内外で22件報告されたという。問い合わせは同社(03・6430・7599)。

日本医師会、CMでイメージアップ 「脱圧力団体狙う」 indexへ

 日本医師会(東京都文京区)は7日から、イメージアップのためのテレビコマーシャル(CM)を放送する。CMでは、医者の不用意な発言が患者を傷つける「ドクターハラスメント」などを取り上げることで、日医が患者側に立っていると強調している。イメージ戦略を始める理由を日医は「圧力団体といったマイナスイメージからの脱却を図りたい」と説明している。
 CMは3パターンあり、予算は約4億円。
 「素人に話しても時間の無駄」「あんた何歳まで生きれば気が済むの」……。診察室や病院の廊下などの映像に、医師による言葉の暴力がテロップで流れる。その後に「私たちはあえて問題にしたい。日本医師会です」とのアナウンスが入る。
 「おじいちゃん」と声を掛けられた認知症のお年寄りは孫と気付かず、「こんにちは」とあいさつ。孫が驚くCMでは「これからの日本に欠かせない高齢者医療を支えます」。学校が舞台のいじめ・虐待編では「いじめや虐待を見逃さない。それも大事な医療の一つです」と訴える。
 今年6月、大手広告会社が日医のイメージを調査したところ、「非常に好き」「やや好き」が計3%に対して、「あまり好きでない」「嫌い」は計36%もあった。「どちらともいえない」が61%。
 日医の中川俊男常任理事は「主治医は信頼されているのに、その集まりの日医は否定的に見られている。このギャップを埋めないと、医療制度を守るため我々が主張しても、まっすぐに伝わらない」と説明している。
 日医は、全国の医師16万3000人(05年12月現在)で構成する民間の団体。52%が開業医で、48%が勤務医。

多発性硬化症の進行予測法 厚労省チーム発見 indexへ

 手足のしびれや視力の低下を引き起こす難病「多発性硬化症(MS)」で、患者の症状が悪化するかどうかを予測する診断法を、厚生労働省の研究班(班長、山村隆・国立精神・神経センター免疫研究部長)らが見つけた。15日付の米免疫学会誌に論文を発表する。症状の進行を事前に予測することで、症状を事前に抑えたり、不必要な投薬をせずに済んだりできるという。
 MSは症状が出た後、数カ月から数年間治まる場合と悪化する場合とがある。だが、どちらに進むか見極める方法がなく、インターフェロン治療を採用するかどうか迷うことも多い。
 研究班は、症状が悪化する患者の血液中のナチュラルキラー細胞の表面にCD11cというたんぱく質が異常に多く現れることに注目。このたんぱく質が現れた患者23人のうち60%が4カ月以内に再発していた。一方、たんぱく質が正常に現れている患者の再発率は15%だった。
 このたんぱく質が現れているかどうかは、採血検査により数時間で判別できるという。
 山村部長は「インターフェロンには発熱などの副作用がある。今回の診断法で再発の可能性が低いと判断されれば、インターフェロン治療の必要がなく、患者の身体的な負担を避けることができる」と話している。

新薬審査、1年に短縮へ 厚労省、来夏までに態勢整備 indexへ

 外国で使用されている医薬品が国内で使えるようになるまでに遅れが出る「ドラッグ・ラグ」などを解消するため、厚生労働省は今月から、新薬を迅速に提供する態勢の強化に乗り出した。現在は約2年かかっている審査期間を1年に短縮することなどをめざし、来夏までに承認や審査の態勢を整える。
 新薬を製造・販売するには、製薬会社は効果や副作用など治験で得たデータを示し、厚労相に申請、審査を受けて承認を得る必要がある。
 日本製薬工業協会によると、海外で新薬が出てから自国の市場に出回るまでの平均期間(04年)は、米国の505日に対し、日本は1417日と3倍近い。
 国内で承認が遅れる理由としては、治験の実施や審査に時間がかかったり、提出データの明確な基準がなく追加データを求められることが多かったりすることなどがあるという。
 厚労省は1日、承認審査等推進室を設置。迅速化のため、どんなデータをそろえればいいのか審査の透明性を向上させる。欧米の臨床試験データを活用するほか、海外と同時に臨床試験をする国際共同治験なども検討する。審査にあたる独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」の審査官も増やす。
 安全性がある程度認められ、医師や患者からの要望が多い新薬については、早期承認し、市場に出た後、副作用や有効性のデータを収集する「市販後臨床試験」も実施していくという。

「終生、無償で看護」約束 医療過誤裁判で和解 愛知 indexへ

 昏睡(こんすい)状態になったのは愛知県半田市の市立半田病院が適切な外科手術をしなかったためだとして、寝たきりで同病院に入院している同県知多郡内の50歳代の男性と家族が、同市を相手取り、1億7000万円の損害賠償を求めた訴訟は2日、名古屋地裁で和解が成立した。市は、慰謝料など8200万円を支払うほか、「終生にわたって無償で適切な看護、医療を受けさせる」と、条項に盛り込んだ。
 同病院は「家族の意向をできるだけ受け入れた」という。条項ではまた、病院が将来、閉鎖するなどした場合も、市が転院先を確保し、無償提供するなどとした。
 訴状によると、男性は98年7月、自宅で下血して近くの医院で胃潰瘍(かいよう)と診断。同月31日夜、半田病院に入院した。担当医は内視鏡で止血したが、男性は数日間、吐血を繰り返した後、植物状態に陥った。男性の家族は、病院は外科手術をすべきだったと主張。同地裁が今年1月、和解を勧告していた。
 財団法人「日本医療機能評価機構」裁定委員で、医療過誤で子を失った勝村久司さんは「今後、被害者をどう助けていくかを明確にした理想的な和解で、とても珍しい」と話した。

手術数多い病院ほど死亡率低い 食道がんなど 学会調査 indexへ

 日本胸部外科学会(松田暉理事長)は、食道がん、肺がん、心臓病の手術に関し、手術の数が多い病院ほど患者の死亡率が低いとする全国調査の結果をまとめた。厚生労働省は手術件数によって診療報酬に差をつける制度を今年4月に廃止したばかりだが、手術数と治療成績の相関関係を示すデータが示されたことで、今後の診療報酬の議論に影響を与えそうだ。
 調査は全国747の病院の、00〜04年の約42万件の症例を分析した。
 食道がんの手術では、年平均手術数が25未満の716病院の平均死亡率(入院中に死亡した患者の割合)が6.5%だったのに対し、手術数が75以上の6病院は1.6%だった。25未満の病院では死亡率が20%を超えたところもあった。
 肺がん手術は、年平均手術数が10未満の病院の平均死亡率(術後30日以内に死亡した患者の割合)は1.6%だったが、150以上の病院は0.3%。心臓病でも、年間手術数100以上の病院の平均死亡率(同)は、25未満の病院の約2分の1だった。
 今回の調査は、病状の重さの違いで死亡率に差が出ることを考慮していないが、同学会は「調査数が非常に多いため、各病院の患者の平均的な病状に大きな差はないと考えていい」としている。
 厚労省は02年度、手術件数が基準に満たない病院の診療報酬を3割削減し、特定の病院への手術の集約化を促す仕組みを導入した。しかし、中央社会保険医療協議会(中医協)が「手術数と治療成績が相関するとはいえない」との検証結果をまとめたため、今春、廃止した。中医協は今年7月に新たな検討会を立ち上げており、病状の重さも考慮した詳しい調査を近く実施する。

がん治療費、「説明十分」は25% 自己負担年40万円 indexへ

 がん治療の自己負担は年間約40万円で、医師から十分に説明を受けたと感じているのは患者の4人に1人――。東北大の濃沼信夫教授(医療管理学)らの調査でこんな実態が浮かび上がった。横浜市で開かれた日本癌(がん)学会で9月30日、発表した。
 各地のがんセンターや大学病院など35施設の患者約4200人と、医師約700人に、年間の費用負担や医師からの説明状況について聞いた。
 その結果、入院費だけに300万円近く払っている人も少数いたが、一時的な立て替えなどを含む支払総額の平均は93万1000円。収入や年齢で決まる自己負担の上限を超えた分の払い戻しや、民間のがん保険などの給付金が53万8000円あるため、「正味」の負担額は約40万円と推計された。
 このうち健康食品や民間療法を取り入れていた人は6割。平均の支払額は20万8000円で、正味負担額の半分を占めた計算になる。
 だが、こうした負担の説明を医師から「十分に受けた」と感じている患者は24.9%で、「なかった」が56.1%、「覚えていない」が14.9%だった。医師側は「あまりしない」「全くしない」が8割近く、「必ずする」は5.2%にとどまった。
 濃沼さんは「医師側は治療法だけでなく、費用のことも十分説明して患者の同意を得ることが大切」と指摘している。

執刀医「腎移植のカリスマ」、移植の件数突出 腎臓売買 indexへ

 臓器売買の疑いで愛媛県警の強制捜査を受けた愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院は、腎臓移植の件数が多いことで全国的に知られていた。執刀医は生体腎移植の専門家として知られ、「腎移植のカリスマ」ともよばれていたという。地元の患者らの間には、同病院が事件の舞台になったことに驚きが広がった。
 日本移植学会によると、04年の全国の腎移植の実施症例数は898件。このうち、宇和島徳洲会病院は20件で、東京や名古屋などの都市部の病院に並んで全国8位の多さだった。同病院は04年4月に開設されており、実質9カ月間の実績だった。
 また、都道府県ごとの透析患者の数に対するその自治体内の病院で実施された腎移植数の比率は、愛媛県が2.078%で全国1位(03年)だった。
 今回の腎移植を執刀した万波誠・泌尿器科部長(65)は、この日も通常通り診察をこなした。朝の出勤時、宇和島市内の自宅前に詰めかけた報道陣の問いかけには答えなかった。
 万波部長は宇和島市立宇和島病院を退職後、04年に開院した宇和島徳洲会病院に迎えられた。徳洲会の関係者は「地方の病院進出を成功させるためには顔となる医師が不可欠。万波先生の実績はずば抜けていた」と説明する。愛媛県内の腎臓内科の医師は「腎移植のカリスマ」とよんだ。「万波先生の実績と知名度で、全国から患者が集まっていると思う」
 事件を知った患者らは一様に驚きの表情を浮かべた。一方、病院や行政も対応に追われた。
 宇和島徳洲会病院は2日朝も普段通り診察が始まった。入り口には院内での取材自粛を求める張り紙が出された。病院事務局の担当者は集まった報道陣に対し、「午後1時ごろから臨時の幹部会議を開いて対応を検討する。記者会見も開く予定」と説明した。今回の事件に関する抗議の電話などはないという。
 万波部長の腎移植手術を2回受けたという宇和島市の男性(53)は「万波先生は、患者のために自分の生活を顧みないほど熱心な医師。豪快な性格なので、患者を助けたい一心で手術したのだと思う。金のために動く人ではない」と話した。
 同市の女性(72)はC型肝炎で、現在は夫(74)に付き添われ週3回通っている。「やさしい先生ばかり。こんなことがあってもイメージは変わらない」
 妻が5日前から出産のため入院している20代の男性は「騒がれているみたいだけど、それによってどうこうするというのはない。何も心配していない」と話した。